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「スカウトがそこまでするんですか?」オリックスのスカウトに聞いて驚いた“意外な仕事”「プロ野球に“入れてやる”なんて時代ではない」
posted2022/08/15 17:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Getty Images
お願いしていた取材があって、日吉(神奈川県横浜市)の慶應義塾大学の野球場に着いたのは、朝の8時半をちょっと過ぎた頃だった。
夏の甲子園予選が終わって、出場校が出揃い、スタートまでまだ数日。「業界」は、つかの間、ホッとした気分が漂う時期だ。
大学生球界はというと、キャンパスは夏休みでも、秋のリーグ戦まで1カ月ちょっと。強化練習の真っ只中で、あと1週間もすれば、連日のオープン戦。「秋のシーズン」はすでにスタートしているのだ。
朝9時前とはいっても、メラメラとかげろうでも立ちそうなほどの炎熱のグラウンドでは、すでにアップが始まっていた。
と、一塁側のダグアウトで、堀井哲也監督と話し込んでいるスポーティーな男性は、もしや……。
オリックス・バファローズ、牧田勝吾スカウト。正式には、編成部副部長。
「35歳でスカウトになって、14年になります」
この方とは、なぜか今年、いろいろな「現場」で偶然出会う。
甲子園予選の地方球場だったり、高校のグラウンドだったり、移動の新幹線の中だったり。この春あたりからでも、そんなことが5回も6回もあったから、この時も「よく会いますね……」と、お互い笑ってしまった。
ダグアウトといっても、屋根の下じゃない。炎天にさらされながら、横に座って、熱心に堀井監督に語り続け、監督も真剣な表情で耳を傾けている。
「練習開始が8時って聞いたもんですから、4時に起きて来ました」
遠方のお宅から、東京を突っ切って、このグラウンドにやって来た。
玉のような汗が顔じゅうに吹き出して、まだ「現役」みたいだな……と思ったら、
「35の歳でスカウトになって、おかげさまで14年になります」
と聞いて、驚いた。
静岡・島田商、愛知学院大とずっとショートを守り、社会人野球の名門・日本通運の5年目……キャプテンを務めていた2001年のドラフトで、オリックスから11位指名を受けて、プロ野球に進んだ。主に三塁手として7年間プレー。2009年のシーズンからスカウトとして、フロントに加わった。
4、5年前ぐらいからのスカウト勤務かと思っていたのは、どことなくおさまった感じがなく、フレッシュな印象があったからだ。
「スカウトの方が、そんなことまでなさるんですか?」
その牧田スカウトに、慶大グラウンドから2、3日経って、またひょんな場所で出会ったから驚いた。