ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
「ドイツやスペインと間違いなく戦える」トルシエがブラジル戦の日本代表に見た日韓W杯から20年の進化とカタールへの期待
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/08/03 11:01
苦戦がありながらもW杯予選を勝ち抜いた日本の強さを認めつつも、トルシエはチームの明確な問題点を論じた
その1週間前、トルシエは国立競技場で日本対ブラジル戦を観戦した。2002年日韓W杯から20周年を記念しての、日本サッカー協会の招待。試合前にはスタジアムで当時の選手たちも集まってレセプションも開かれた。そして彼らとともに日本対ブラジル戦を観戦した。
電話で話を聞いたのは、ブラジル戦の翌日と翌々日だった。トルシエのロングインタビューを3回に分けて掲載する。まずはその第1回から。(全3回の1回目/#2、#3へ続く)
■■■
――ブラジル戦に関しては、ポジティブな面とネガティブな面の両方が見られましたがどう分析しますか?
「結果は敗戦だが日本は引き分けに値した。プレーの内容も満足のいくもので、昨日の日本は守備的によく組織されていた。ブラジル相手に守備はとても重要だ。
だが、同時にフラストレーションも感じたのは、守備的戦略として奪ったボールを簡単に相手に渡さないやり方もできたのに、日本がそれをしなかったからだ。選手がテクニックを発揮して、コレクティブにボールをキープしようとはしなかった。
もともとブラジルは守備が好きではない。そして日本にはボールを支配してキープする力がある。とりわけ相手を走らせることができる。それができるのに、選んだのはボールを奪うや即座にカウンターアタックを仕掛けることだった。
活かされなかった日本の力
たしかにスピードある選手たちがいるからカウンターは有効だが、攻撃は後方から始まり、十分な人数をかけられなかった。アタッカーは孤立し、相手DFと1対1の状況に直面した。日本の選手はフィジカルが強く、スピードもあるが力強さには欠ける。日本が持てるすべての力を有効に活用したとは思えない。
よく守ったのは悪くないが、攻撃がよかったかと言えば……。何かを加えるとしたら相手を走らせるべきだった。ボールを危険なゾーンから早く持ち出して相手を走らせる。しかもホームゲームなのだから、日本はもっとボールを支配して相手を走らせることができたはずだ。それが昨日足りなかったことだ。
アタッカーたちはゴールにばかり向かっていた。一直線にゴールに向かっても、相手の守備網に簡単に引っかかるだけだ。それでは彼らのバランスを崩せない。バランスを崩すにはもっと別の動きも必要だ。しかしブラジル守備陣にほころびは生じず、伊東も満足のいくプレーはできなかった。ドリブルを仕掛けようとしたがうまくはいかなかった。彼にはサポートが必要だったし仕掛けも必要だった。
日本はよりコレクティブかつ忍耐強くプレーすべきだった。攻撃の際の判断が速く、仕掛けるのが早すぎた。縦に速い攻撃で一直線にゴールを目指すから、守る側は対処しやすい。予測も容易で、ブラジルに脅威を与えることはなかった。