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「ドイツやスペインと間違いなく戦える」トルシエがブラジル戦の日本代表に見た日韓W杯から20年の進化とカタールへの期待
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/08/03 11:01
苦戦がありながらもW杯予選を勝ち抜いた日本の強さを認めつつも、トルシエはチームの明確な問題点を論じた
「自信の欠如ではない。昨日の日本がその手段を持っていなかったからだ。コーチにそのつもりがなかったのかも知れない。
私がこのオプションを語ったのは、彼らにそれができるという確信があるからだ。日本の技術レベルは高く、同時にコレクティブでもある。全員で目標に向かって力を合わせられるし、個のテクニックをコレクティブにも高度なレベルで発揮できる。自信を持って実行できるのに、昨日の日本はその武器を使わなかった。ただそれだけのことだ。
そうした方向でプレーすべきだったし、トレーニングも積むべきだった。コーナーキックやフリーキックの練習と同じように。監督がセットプレーの練習を意図的におこなうように、ボールを簡単に奪われない練習や相手のプレスに対応する練習、どうやってプレスをかわして相手を走らせるか――ボールを回して相手を右往左往させられるかを練習すべきだった。それは今の日本が活用していない武器だ」
勝負を分けたブラジルとの違い
――あなたの時代に雨のサンドニでフランスに0対5と大敗し(2001年3月24日、スタッド・ド・フランス。アジアチャンピオンとして世界チャンピオンのフランスに挑んだが完敗を喫した)、攻守のバランスを再考しなければならなかったのと同じではないのですね。
「私は選手の入れ替えを含めてチームバランスの再考を余儀なくされた。フィジカルも個の強さもアグレッシブさもデュエルも十分ではなかったし、濡れたピッチで戦えるスパイクも持っていなかった。われわれは相手のレベルからは程遠かった。
だが昨日の日本は、フィジカル面でも技術面でもアグレッシブさでもブラジルと同じレベルにあった。持っている要素はブラジルと変わりがなかった。違いは武器をどう使うかという戦略面の違いだけだった。日本はブラジルに対抗できるだけの準備ができなかった。
ブラジルは最高のコンディションで試合に臨んだ。彼らはただ待ち構えて、日本に渡ったボールを奪い返した。日本の攻撃は予測が容易で、速すぎる判断が墓穴を掘った。ブラジルとしてはボールを追いかけずに済んだことに満足しているだろう。日本はあまりに早くボールを相手に与えた。彼らにしてみれば守備のロジックの範囲内のことで、ボールを奪い返すために多大な努力をせずに済んだ。
だから私のときとは比較できない。昨日の試合の違いはディテールの違いにすぎなかった。W杯に向けて容易に修正できることだ。日本はもっとボールを支配できたし、相手を走らせることができた。何故なら日本には自信にあふれた優れた選手たちがいたからだ。彼らはボールをもっと保持することができた」
――あなたがアジア最終予選を通じて言っていたのは、この日本代表はいいチームだが小さなチームで、個の強さはなく中田や本田のようなカリスマ性のある選手も、中村や小野、香川のような想像力のある選手もいないということでした。それでも昨日のブラジル戦のクオリティを見れば、日本はW杯でドイツやスペインと戦えるのでしょうか?