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「イノウエが1位に上がることになった。まだ公にしないでほしい」米リング誌のPFP選定委員が明かす、井上尚弥に“最後の一票”が入った理由 

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2022/06/17 17:05

「イノウエが1位に上がることになった。まだ公にしないでほしい」米リング誌のPFP選定委員が明かす、井上尚弥に“最後の一票”が入った理由<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

最も権威があると言われる米リングマガジンのPFPランキングで1位になった井上尚弥。選定委員の1人である筆者が、最後まで意見が割れた舞台裏を明かした

 3階級をまたにかけて戦ってきた井上の23戦中9戦が世界王者(未来、過去も含む)との対戦であり、その中にはドネアのような大物、オマール・ナルバエス(アルゼンチン)、田口良一(ワタナベ)、ジェイミー・マクドネル(イギリス)のように6度以上の長期防衛を果たした実力派が含まれる。

 将来の殿堂入り確実な“オールタイム・グレート”であるドネアの功績はすでに盛んに語られている通り。39歳という年齢が揶揄されることが多いが、井上戦前の2戦でのドネアはWBC世界バンタム級王者ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)、指名挑戦者のレイマート・ガバリョ(フィリピン)をともに4回でKOし、一部メディアからは再びのPFP入りが考慮されるほどの好調ぶりだった。ここで井上があまりにも大きな差を見せつけたからといって、米国内でも多くのファンから待望されていたドネアとのリマッチでの勝利の価値が軽んじられるべきではない。

 井上がプロ8戦目で対戦したWBO世界スーパーフライ級王者ナルバエスも、その時点でフライ級&スーパーフライ級の世界タイトル防衛回数は合計27度というエリート王者だった。敗戦はバンタム級に上げてドネアに判定負けした1戦のみで、スーパーフライ級以下では負けはおろかダウン経験もないというナルバエスを、井上は4度のダウンを奪って2回でKOしてしまった。今振り返っても、この試合こそがドネア戦をも上回る井上のキャリア最高の勝利だったろう。

 依然として勘違いされがちだが、PFPは「体重が同一と仮定したら誰が一番強いかを決めるランキング」ではなく、「全階級を通じて誰が最も優秀なボクサーであるかを経歴と表層上の戦力評価で定めるランキング」である。スポーツは常に相手次第であり、どれだけ強い勝ち方をしても、対戦相手の質が伴わなければ基本的に高評価はされない。いわばレジュメの比べ合い。素質は誰もが認めるものがあり、毎回派手な勝ち方をするものの、対戦相手の質がなかなか上がらないスーパーフェザー~スーパーライト級の3階級制覇王者ジャーボンテ・デービス(アメリカ)がランクインしていない理由はそこにある。

 そういった観点で考えても、パンデミック中こそやむを得ぬ事情で対戦相手の質が落ちはしたが、プロデビュー以降の井上が常に上質な相手に勝ってきたことは特筆されてしかるべきであろう。

ウシクには莫大な敬意を払っている

 一方、ウシクの方も19戦中6戦が世界王者(元王者も含む)相手であるが、戦歴の中にドネア級のレジェンドは含まれていない。体格で大きく上回るアンソニー・ジョシュア(イギリス)を技術で圧倒した勝利は燦然と輝くが、そのジョシュアも3戦前にアンディ・ルイス・ジュニア(アメリカ)にKO負けして評価が急降下。リマッチでは大差判定勝ちでリベンジは果たしたものの、ウシクが対戦した時点でのジョシュアはPFPの上位候補に挙げられるようなボクサーではなかった。

 13戦目にはWBO世界クルーザー級王座を13度防衛した経歴を持つマルコ・フック(ドイツ)という著名選手に勝ったが、ウシクと対戦時のフックは全盛期をはるかに過ぎていた。そう考えていくと、ウシクの最強の敵はやはりジョシュアと、珍しく苦戦を味わわされた現IBF世界クルーザー級王者マイリス・ブリーディス(ラトビア)。総合的に見て、あくまで対戦相手の質に限定するなら、井上にやや見劣りするように思える。

 こうして述べていくとウシクのレジュメに難癖をつけているように聞こえるかもしれないが、それは本意ではないことはご理解頂きたい。ボクシングに携わる1人として、敵地で戦い続けるウシクのキャリアには莫大な敬意を払っている。実際にこうしてレジュメを改めて俯瞰し、対戦相手の質では井上がやや上だとみなした後でも、敵地での強さ、軽量級と比べればはるかに大きな増量が必要だったヘビー級での戦いにも勝ってきたことなどを考慮し、依然としてウシクは井上とほぼ同等かやや上にランクされるべきであるように思えた。

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