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「イノウエが1位に上がることになった。まだ公にしないでほしい」米リング誌のPFP選定委員が明かす、井上尚弥に“最後の一票”が入った理由
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/06/17 17:05
最も権威があると言われる米リングマガジンのPFPランキングで1位になった井上尚弥。選定委員の1人である筆者が、最後まで意見が割れた舞台裏を明かした
ただ……それでも最終的に今回は井上を1位に推してもいいと結論づけた理由は、その戦いぶりのインパクトの大きさだった。上記したナルバエス戦に続き、世界的な注目を集めた“ドラマ・イン・サイタマ2”でもドネアをまったく寄せ付けず、大ベテランにキャリア最悪の惨敗を味わわせた。3つのベルトがかかった統一戦で、“レジェンド”を相手にこれほどの勝ち方ができる現役ボクサーは井上以外に見当たらない。
ただ勝つだけではなく、3人のジャッジの手を煩わせない完璧な形で勝てるという事実も、井上が特別なボクサーであることを示していると考えてもよいのではないか。
総合的な対戦相手の質では井上がわずかに優勢も、敵地での実績&ヘビー級の付加価値でウシクがリード。しかし、大舞台で強敵を相手に規格外の勝ち方ができるというアクセントを評価し、井上が逆転。そういった選考過程を辿り、私は最終的に井上のトップ浮上を決断した。
3人がどう入れ替わっても異論はない
異論がある人も数え切れないほどいるだろう。ここでは1位井上、2位ウシク、3位クロフォードという順位が適切と考えたが、この3人の順位がどう入れ替わっても特に反対はしない。それと同じように、ウシクの1位を推したリングマガジンのパネリストも、井上1位を問題視はしていないことは付け加えておきたい。ウシクを1位にした中の1人であるモンテロ氏も、自身のポッドキャスト内でこんな言葉を残していたことは象徴的と言えたのかもしれない。
「エデル・ジョフレ(ブラジル)、カルロス・サラテ、ルーベン・オリバレス(ともにメキシコ)、ファイティング原田、ピート・ハーマン、オーランド・カニザレス(ともにアメリカ)、ジョージ・ディクソン(カナダ)といった過去のバンタム級のグレートたちの何人かはドネアに勝つだろう。ただ、井上がやったように、ドネアを破壊できる選手がいるかどうかはわからない」
PFP選考でも米スポーツ特有の「What have you done lately(最近何をやったのか)」が重視される傾向にあり、今夏に予定されるウシク対ジョシュア第2戦、今秋に企画されているクロフォード対エロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)の内容、結果次第でまた順位の変更はあり得る。井上が年内に再び3位まで落ちても不思議はない。
ただ、それでもマイク・タイソン、フロイド・メイウェザー(ともにアメリカ)、マニー・パッキャオ(フィリピン)、ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、サウル・アルバレス(メキシコ)といったビッグネームに続き、井上が一度でもリングマガジンのPFP王者の系譜に名を連ねたという事実はもう永遠に変わらない。
日本のモンスターは、真の意味で世界のモンスターへ。ここで分かり易い栄誉を手にした井上が、今後、欧米でさらに大きくステータスを高めていっても、もう世界中の誰も驚きはしないはずである。
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