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顔はしわくちゃ、皮膚はカリカリ…ボクサーはなぜ“過酷すぎる減量”に挑み続けるのか? 世界王者が語る水抜きのコツとダチョウの美味さ

posted2022/06/17 17:00

 
顔はしわくちゃ、皮膚はカリカリ…ボクサーはなぜ“過酷すぎる減量”に挑み続けるのか? 世界王者が語る水抜きのコツとダチョウの美味さ<Number Web> photograph by Masayuki Sugizono

「ボクサーの減量」をテーマに取材に応じたWBO世界ミニマム級王者・谷口将隆(28)。リミットに達した時の姿と見比べると、その過酷さがよくわかる(減量中の写真は記事内でご覧いただけます)

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杉園昌之

杉園昌之Masayuki Sugizono

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Masayuki Sugizono

 たかが1kg、されど1kgである。

「一般の人は誤差と言うかもしれないけど、プロボクサーにとって、1kgはとてつもなく重いんです。最後の1kgを落とすのは、本当に地獄なので」

 WBO世界ミニマム級王者・谷口将隆(ワタナベ)の言葉には力がこもる。4月22日の初防衛戦では、挑戦者の石澤開(M.T)が前日計量で2.5kgの体重超過。2時間後の再計量でもミニマム級リミットの47.62kgをクリアできず、2.3kgのウエイトオーバーで失格となった。ただ、翌日の夕方、石澤のみ50.6kgリミットの当日計量を課す条件付きで試合は開催。谷口は負ければベルトを失うリスクがあるなか、11回TKOで石澤を下し、あらためて減量について考えさせられた。

「誰にでも失敗はあるので、油断はできないなと。あの試合でふんどしを締め直しました。自分が失敗したときに何か言われるのが怖くて、黙るのは違うのかなって。僕はあえて言いますが、ボクサーとしてリングに上がる前に計量をクリアするのは大前提」

減量中はダチョウを食べる!?

 谷口の身長は162cm。普段の体重は約57kg。試合日の2カ月前から計画的に減量し、10kg近く落とす。最初はダイエット感覚。試合が決まると、食欲旺盛な28歳は節制生活に入る。ご飯の大盛りを止め、箱買いするほど好きな六花亭のバターサンドなどの間食を一切なくす。水分はミネラルウォーターか炭酸水のみ。食事は朝昼兼用と夕食の2回。初防衛戦前は150gから200gの白米に納豆キムチ、メインディッシュは鶏のささみと特別な肉を食べ分けた。昨年12月に世界王座を初めて奪取したときから減量期間はダチョウの肉を自ら焼いて、よく食べているという。

「食べ方は塩コショウを振ってステーキ風にしています。鳥肉なのに赤身で、クセもないんです。牛肉感覚ですごくおいしくて。100キロカロリー程度ですし、タンパク質も豊富。すっかりはまっています」

 飲食に気を使い、1カ月かけて3kg程度減らす。試合日まで1カ月の段階であと7kg。ここから追い込み練習をこなしていくと、自然と4kgは絞れる。ただ、減量のための練習はしない。バランスの良い食事を取りつつ、試合に勝つための練習を前日計量の3日前くらいまで続ける。

「食べな過ぎもよくない。自分に合ったものを適量食べることが大事。昔は白米を敬遠し、玄米や春雨など軽そうなものばかり食べていましたが、正直パワーが出なかったんです。僕の体には合ってなかったのかな。やっぱり、日本人は白米ですよ」

【次ページ】 計量3日前から「水抜き」を開始

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