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「イノウエが1位に上がることになった。まだ公にしないでほしい」米リング誌のPFP選定委員が明かす、井上尚弥に“最後の一票”が入った理由

posted2022/06/17 17:05

 
「イノウエが1位に上がることになった。まだ公にしないでほしい」米リング誌のPFP選定委員が明かす、井上尚弥に“最後の一票”が入った理由<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

最も権威があると言われる米リングマガジンのPFPランキングで1位になった井上尚弥。選定委員の1人である筆者が、最後まで意見が割れた舞台裏を明かした

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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Takuya Sugiyama

「イノウエが1位に上がることになった。あと5~6時間後には私が発表するから、それまでは公にしないでほしい」

 6月9日、編集人のトム・グレイ氏より一報が届き、日本ボクシングの歴史が動いたことを知った。“1位”が何を意味するかはもう説明する必要もないだろう。米国のリングマガジンが定めるパウンド・フォー・パウンド・ランキング(以下、PFP)で、WBAスーパー、WBC、IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)が日本人ボクサーとしては史上初めてトップに立った。つまり、日本が産んだ史上最高の選手が、“世界最高のボクサー”として認められたということだ。

稀に見る大激戦、意見が真二つに割れた

 私は2019年秋以来、伝統ある同誌のPFPランキング選定委員(パネリスト)を務めているが、今回のトップ選定は稀に見る大激戦だった。6月7日のノニト・ドネア(フィリピン)戦で2回KO勝ちという圧倒的な強さをみせた井上が、前週の3位からどこまで順位を上げるかが議論の争点になったのだ。

 自身にとって3階級目にあたるバンタム級で3団体を統一した“モンスター”がWBO世界ウェルター級王者テレンス・クロフォード(アメリカ)を凌駕して2位に浮上することに関しては異論がなく、早々と確定。その後、井上を一気にトップに推す声と、クルーザー級の4団体を統一し、ヘビー級まで制覇した現WBAスーパー、IBF、WBO世界ヘビー級王者オレクサンデル・ウシク(ウクライナ)の1位キープを支持する意見が真二つに分かれた。

 私、トム・グレイ氏、アンソン・ウェインライト氏(ともにイギリス)、ディエゴ・モリージャ氏(アルゼンチン)の4人が井上に、マイケル・モンテロ氏、マーティン・マルケヒー氏、アダム・アブラモビッツ氏(いずれもアメリカ)、トリス・ディクソン氏(イギリス)の4人がウシクに1位票を投じて4-4。均衡を破ったのは、他ならぬダグラス・フィッシャー編集長(アメリカ)の1票だった。

「井上のパフォーマンスはセンセーショナルで、オフェンス面では完璧なボクシングに見える。少なくとも2位に上げることに賛成だったが、正直、1位のウシクと甲乙つけがたい。井上がPFPのトップでも問題ない」

 当初はそう述べていたフィッシャー編集長は、最後の最後で「私は井上をNo.1に推す(Inoue to No. 1 for me)」と短いコメントを追加。実に3日間に及んだ熱のこもった議論はここでついに終わった。

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