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《追悼》「新しいW杯を創設すべきときかもしれない」イビチャ・オシムが“最後のインタビュー”で語っていたこと
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph bySports Graphic Number
posted2022/05/04 17:03
旧ユーゴスラビア代表監督などを経て、日本ではジェフユナイテッド市原・千葉、日本代表で監督を歴任した。享年80
もう待っているだけのときは過ぎた
3.新しいW杯を創設すべきときかもしれない。
優れたものを優れたものとして認めるところから進歩が生まれる。恐らくはコロナも克服できる。もう待っているだけのときは過ぎたが、いまだ世界は戦いのさなかにある。ふたりのボクサーの闘いだ。ひとり(世界)は倒れ、もうひとり(コロナ)はまだ立っている。特効薬は今もまだ発見されていない。どうすればいいかも正確にはわかっていない。誰もが不安を抱えたままで、コロナは私たちが想像していたよりずっと強力だった。薬の開発には時間がかかるが、経験をしっかりと蓄積して、同じ過ちを繰り返さない。忘れたり、なかったことにはしない。コロナだけに限らない。われわれのおこなうことすべて、生きて活動していくすべてのことに関してだ。
同じことはサッカーにもいえる。サッカーも同様に進歩するからだ。最高のサッカーを見れば、新たな喜びを得るし身体もリフレッシュする。知的にもなれるし、どう金を使うべきかのノウハウも得られる。どうすればさらに進歩するか。それはどの部分なのか。フィジカルなのか戦術なのか、とりわけ戦術の規則なのか……。そうしたことがすべてわかってくる。だからこそ何が問題であるのかを明らかにし、そこから新たな法則を探究する。
負の部分もしっかりと認識して対処しながら
私にとってはどの試合もいい試合だ。選手はよく走っている。どうしてもミスに目が行ってしまうし、ミスから危険な場面が生まれることも多いが、それでも満足はしなければならない。常にミスの原因を追究し、そこから進化していくことこそが重要であるからだ。
もしかしたら今は、新しいW杯を創設すべきときなのかもしれない。最高クラスの選手たちだけのための大会だ。いい試合が見たければ、最高の選手たちがプレーする試合を見るに越したことはない。それがサッカーを進化させるし、若い選手たちのクオリティには多くを期待できる。
素晴らしいサッカーとともにこれから生きることを私は望む。さまざまな課題と向き合いながら。よいことばかりではなく、負の部分もしっかりと認識して対処しながら。サッカーには、人間には、そうした課題を克服していく力があると私は信じている。 <Web編に続く>
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