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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
青学大トレーナーが泣いた日… 箱根駅伝圧勝の裏にあった中野ジェームズ修一の“厚底シューズ対策”「以前は大反対だったんです」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byMami Yamada
posted2022/03/16 17:02
2014年に青山学院大学陸上競技部長距離ブロックのフィジカルトレーナーに就任した中野ジェームズ修一氏。その後、同大学は箱根駅伝で4連覇を含む6度の総合優勝を達成した
中野が注目したのは、「大腿四頭筋」と「臀筋群」だった。
「青学では『足を素早く折りたたんで前に出す』という動きに必要なハムストリングス(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)の強化を大事にしてきました。けれど、厚底シューズの場合、その作業はシューズがやってくれる。ハムストリングスを使わずとも、勝手に足を上げてくれるんです。そして高く上がった足が着地するときの反発力をうまく使えれば、そのままスピードに繋がります。着地をしたときに、大腿四頭筋と臀筋群でグッと押さえて沈み込んだら、カーボンが跳ね上げてくれるわけです。また、厚底シューズで走ると高重心になるので、臀筋群が強くないと、股関節、仙腸関節がぐらぐらと動いてしまう。股関節周りや仙腸関節の疲労骨折が起きやすくなるのは、そういうことなんです」
バーベルを背負ったスクワットなどで、大腿四頭筋と臀筋群を主に強化すれば、厚底シューズの反発力を武器にできるという結論に至った。
中野は入念に資料を作り、実際に身体を動かすところを見てもらうことも考え、周到な準備をして原監督へのプレゼンへと臨んだ。
「わかりました。それでお願いします」
原監督はあっさりと中野の提案を受け入れた。
「2014年から一緒に仕事をさせていただいていますが、原監督は私の提案にNGを出すことはほとんどありません。それだけの信頼をいただいていることは、同時に責任の重さでもありますね」
「練習についていけなくなる」という声も
ただ、原監督が大切にしている「選手たちの自主性を重んじる」という指導法は、中野にとっても守らなければいけない不文律だった。中野が苦心して作ったトレーニングメニューであっても、強制はできない。選択するか否かは選手個々の判断に委ねられる。
「インナーマッスル中心のメニューから、アウター系を鍛えるトレーニングを行うというのは、選手たちにとって非常に大きな負担になります。普段、全員で行う補強トレーニングでも『こんなにきついトレーニングをすると練習についていけなくなる』という声が上がることもあります。それらのメニューは自重を使った比較的軽い負荷なんですが、もし走りの練習に悪影響が出れば、間違いなくメンバーから外れてしまう。選手たちのそんな気持ちを理解しながらも、ウェイトを使ったアウターのトレーニングの必要性を訴えました。やりたいと思った人は僕たちトレーナー陣に声をかけてください、と」
全員が諸手を挙げて、新メニューを歓迎したわけではなかった。それでも中野の新しい挑戦が始まった。