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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
青学大トレーナーが泣いた日… 箱根駅伝圧勝の裏にあった中野ジェームズ修一の“厚底シューズ対策”「以前は大反対だったんです」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byMami Yamada
posted2022/03/16 17:02
2014年に青山学院大学陸上競技部長距離ブロックのフィジカルトレーナーに就任した中野ジェームズ修一氏。その後、同大学は箱根駅伝で4連覇を含む6度の総合優勝を達成した
「12月20日くらいに新型コロナウィルスの濃厚接触者に認定されたんです。最後まで選手をサポートできなかったことが悔しくて、テレビを見ることもできなかった」
福原愛をはじめ、多くのトップアスリートのコーチを務めてきた中野がこれを「痛恨の失敗」と受け取っていても不思議ではない。もちろん、同行できずともできる限りの力を尽くしたが、チームの結果は、自身を責める材料としては十分だったはずだ。
「アップメニューを変えるだけでは、本当の意味で厚底の機能を活かせるようにはならない。もっと根本的に見直す必要性を感じました」
同時に気がかりもあった。
それは股関節や仙腸関節まわりの疲労骨折、臀筋まわりの異常など、厚底シューズの弊害と思われる故障をする選手の存在だ。
こうして2021年の箱根駅伝終了直後から、中野の苦闘が始まった。
「大反対」だったウェイトによる強化を決断
かつて中野は、アメリカ・ロサンゼルスでフィジカルトレーナーとしての第一歩を踏み出した。そのネットワークを活かして、当時の知り合いなどアメリカのトレーナーたちの意見を集めた。すると、厚底シューズに関するさまざまなエビデンスや、最新の知見に触れることができた。ただ、外国人選手のトレーニング方法をそのまま日本人に使えるというものではない。
「アメリカ時代にはさまざまな人種のクライアントがいました。それぞれに身体が違い、骨格が異なるんです。そこを熟知しているのは僕自身の強みでもあると思っています。日本人にどう応用すれば良いかを試行錯誤し、メニューの構成を原(晋)監督にプレゼンしたのが3月下旬でした」
中野が示したのは、アウターの筋肉強化案だった。彼は『青トレ』(徳間書店)という著作でも示した通り、体幹トレーニングと動的ストレッチなどを導入して駅伝強豪校となった青学を支えてきた。その一方で、体躯が華奢な長距離ランナーのアウターマッスル強化には懐疑的だった。
「彼らは本当に身体が細いんです。男子でも体重が45、6キロという選手もいます。普通のアスリートと比べてもはるかに細い。そんな選手が自分の体重と同じくらいの重さを脊柱や頚椎に乗せたら、頚椎捻挫や圧迫骨折、ヘルニアを起こしてしまう。身体の構造が耐えられない。だから以前は大反対だったんです。しかし、厚底シューズで結果を残している海外の選手は比較的筋肉量が多かった。青学でも、まずは筋肉量を増やさないと結果に繋がらないと決断しました」