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史上最多191ゴールでも「悔しい思いはずっと残る」 大久保嘉人の“ヨシメーター”はもう一度動くのか《J1ラストゲームへ》
posted2021/12/03 17:05
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph by
Kiichi Matsumoto
引退会見で語ったその言葉が印象的だ。
「自分は逆境に立ち向かっていかないと、力が出ないタイプの選手だった」
Jリーグでもっともゴールネットを揺らしてきたストライカーは、ときにメディアのパワーも使いながら逆境や困難を作り出すことによって、自分に負荷をかけながら奮い立たせてきたと明かす。
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「このままならば這い上がれないなと思ったときには、自分へプレッシャーをかけるようなことを言って、記者の皆様にいろいろと書いてもらい、それで立ち向かうこともありました。そうやって20年間やってきました」
熱くなって空回ることは「全然恥ずかしくない」
ピッチでうまくいかない時の大久保嘉人は、確かによく怒っていた。
淡々とやり続けるのではなく、感情をむき出しにしながら、全身全霊で自分を表現する。ときには、その方向が審判や相手選手に向かって退場することもあったが、あの「なにくそ!」という闘争心こそが、彼をゴールに向かわせる原動力にもなっていたということだ。
川崎フロンターレ時代、あの振る舞いの理由を明かしてくれたことがある。
「普段は何もできないし、全然喋らない恥ずかしがり屋だけど、試合では違う。あのぐらいやらないと自分はパワーが出ないし、そうしないとダメ。だから試合中にガーッと言って、パワーを出す。貯めていたらパワーは出ないよ。別に空回ってもいいし、そこは全然恥ずかしくないって。淡々とやっていたら、普通の男でしかないんだから」
熱くなっているように見えても、頭の中では冷静さと緻密さが同居しているストライカーでもあった。本能だけで熱くプレーするだけのFWに、J1リーグ歴代トップとなる191もの得点数を積み上げることなど出来るわけがない。特に3年連続の得点王に輝いた川崎時代には、相手守備陣のあらゆる監視の目をかいくぐりながら、一瞬の隙を突いてゴールネットを揺らし続けた。
大久保はよく言っていた。
「自分はすごく考えてプレーしてますよ。他の人は野性的にやっていると思っているかもしれないけど、すごく考えている。相手に研究されても、逆を取ってやろうと思って常に駆け引きしている。そういう駆け引きに勝って点を取ったときは嬉しいよね」