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史上最多191ゴールでも「悔しい思いはずっと残る」 大久保嘉人の“ヨシメーター”はもう一度動くのか《J1ラストゲームへ》
text by

いしかわごうGo Ishikawa
photograph byKiichi Matsumoto
posted2021/12/03 17:05

ゴールを決めて雄叫びをあげる川崎フロンターレ時代の大久保嘉人。自身を奮い立たせるために、試合後は感情をむき出しにしていた
ゴールが欲しいときほど、自分のためではなく人のために動く。周囲を見渡し、チーム全体が循環するようなプレーに徹していた。そうすることで不思議とチャンスが巡ってきて、最終的にはゴール前にいる自分が決めることが多かったのだと言う。どこか逆説的な話だが、誰よりもゴールを奪ってきたストライカーが言うのだから、実に興味深かった。
誰よりも悔しさと向き合うストライカー
個人的に忘れられないインタビューがある。
2015年末、史上初となるJリーグ3年連続得点王を達成した直後に行ったものだ。
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誰もが積み上げてきたゴールという成功の数について聞いていた。だったら自分は、その栄光の傍らに横たわっていたであろう日々の試行錯誤や失敗に、どう向き合ってきたのかも聞いてみたいと思った。誰よりもゴールを決めてきた男は、決められなかった悔しさも誰よりも味わってきたはずだからである。
悔しさについて語るときの大久保嘉人は、思いの外、饒舌だった。
「悔しい思いはずっと残りますよ。ポストに当たったとか、PKを外したとかは、いまだに覚えているから。今年(2015年)だったら、松本山雅戦のPKを決めていたら……今ごろ157点だったし(笑)。もっといえば、2年前の試合(2013年湘南戦)のPKも決めていたら今は158点だったなとか、そんなのも考えてしまう」
試合で点を取っていても、満足はしない。むしろ外した決定機が一本でもあったならば、「あともう1点取れていたんじゃないか?」という悔しさがしばらく消せないと苦く笑っていた。それと同時に、悔しさや不安には徹底的に向き合ってきた自負も口にしている。
「そこは、とことん向き合ってますね。試合の後はなるべく引きずらないようにはするけど、嫌でも頭に出てくるし、その場面は消せないから。だったら、出てこいと思うようになった……出てきて、忘れるまで、そのことをずっと考えている」
頭に残る悔しさを解消する作業は、日々の徹底したシュート練習に現れていた。
全体練習だけではなく、居残り練習でも納得するまで壁に向かってシュートを蹴り続けていた大久保の姿は、麻生グラウンドでは見慣れた光景だった。彼にとっては自身が抱える悔しさや不安を打ち消し、次の試合に自信を持って臨むための儀式でもあった。