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来た、見た、書いたBACK NUMBER
30代直前の宇佐美貴史が語る“泥臭いスライディング”の意味とヒーロー観「家長くんは凄いなと」「理想に近いのはミュラー」
posted2021/12/03 17:04
text by
下薗昌記Masaki Shimozono
photograph by
J.LEAGUE
フィニッシュに専念できるかつてのパスワークがないチームで、宇佐美自身も夏場の公式戦15連戦当時は「曜日の感覚もないですね」「体が蝕まれている状態」とフィジカル面の厳しさを口にしたが、過密日程から解放された9月以降、個人成績には決して現れない泥臭い部分でチームに貢献し始めた。目先の勝点にこだわる現実的なサッカーも今の宇佐美は厭わない。
柏戦でのラストワンプレーのスライディング
「ドイツで僕がやっていたのもほとんどがそういうサッカーでした。免疫をつけられていたのは、良かったところの1つかなと思います」
2度目の欧州挑戦にピリオドを打ち、ガンバ大阪に再び復帰した2019年7月、失意のストライカーは「2度目も個人的にはダメだったという印象が、清々しいくらい自分の中にあった」と会見で口にしたが、ドイツでの苦悩の日々もまた、宇佐美貴史という才能の血となり肉となっていたのだ。
宇佐美の先制点で勝利した9月26日の柏戦とやはり宇佐美が決勝点を決めた10月23日の鳥栖戦では、いずれも両チーム最多のスプリント回数を記録。とりわけ印象的だったのが柏戦のタイムアップ寸前に敵陣深くで見せた泥臭いスライディングタックルである。
「あえてそういうプレーをやっているところと、自然にやれるようになっているところ両方の意味合いがありますね。柏戦のラストワンプレーは、自分のスライディングで終わっていますけど、あれはスライディングしても届かないんです。試合の最後にスライディングして、ピッチに仰向けに倒れたまま試合が終わる、というつもりでした。直接的な意味はないかもしれないけど、そういう姿を見せることで、チームに対する影響がもしかしたらあるかもしれない」
ガットゥーゾがガッツポーズしていたじゃないですか
最前線から鋭いスライディングを見せるのは、昨季序盤からの宇佐美の変化の一端だ。彼の胸に刻まれたドイツ語があるという。フォルトゥナ・デュッセルドルフ時代の指揮官、フリードヘルム・フンケルの言葉である。
「フンケルが僕個人に言ったわけじゃないけど、ドイツ語で『Korpersprache』。英語ならボディランゲージかな。『Korper』は体、『sprache』は会話ってニュアンスなんですけど、体で見せる。一時期ガットゥーゾがスライディングで奪った後にガッツポーズをしていたじゃないですか。フンケルは、ああいうプレーが必要だと考える監督だったんです。例えば、スライディングでボールを奪うと、デュッセルドルフのサポーターは喜ぶ。そうやってスタジアムの空気感を作り出して、自分たちも盛り上がっていく。そういうことを求める監督でしたね」