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<“無敵のエース”の原点>オリックス山本由伸18歳が最後の《神戸の青濤館》に入寮して見た「鈴木一朗」のネームプレート
 

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米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byHideki Sugiyama

posted2021/11/30 11:07

<“無敵のエース”の原点>オリックス山本由伸18歳が最後の《神戸の青濤館》に入寮して見た「鈴木一朗」のネームプレート<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

中嶋監督から神戸でのマウンドを託されたオリックス山本由伸。日本一は逃したものの、エースとしての仕事は果たした

 初回から捕手・若月健矢の構えたミットに吸い込まれるようにストレートが突き刺さる。試合開始時の気温が約8度という寒さの中、かじかむ右手にハーッと息を吐きながら、アウトを重ねていった。

 5回表に塩見泰隆のレフト前ヒットで1点を失うが、その裏、オリックスも若月が内野安打で出塁し、福田周平のしぶとい打撃で同点とする。

 圧巻だったのは6回表のマウンドだ。ここまで守備で貢献してきたサード宗佑磨、ショート紅林弘太郎に失策が続き、無死一、二塁のピンチを背負う。ここで山本はギアを上げた。雄叫びをあげながら投げ込み、内角のストレートで5番・サンタナのバットを折って詰まらせ、併殺を奪う。6番・中村悠平はカーブでショートゴロに打ち取って無失点に抑え、味方を救った。これぞエースの仕事だ。

 そして9回表、この日2度目の登場曲『Frontier』が流れ、スタンドの大きな手拍子の中、山本がゆっくりとマウンドに向かった。8回は山田哲人、村上宗隆、サンタナのクリーンアップを3連続三振に取り、この時点で球数は自身最多と並ぶ126球。それでも続投を志願した。9回も3人で抑え、日本一への夢をつないだ。

神戸の「青濤館」に入寮した最後の世代

 神戸の地で、山本由伸が日本シリーズに登板する、というのが感慨深かった。

 ほっともっと神戸はかつてのオリックスの本拠地で、現在もレギュラーシーズンで主催試合が開催されている。

 以前は球場から徒歩10分ほど離れたところに合宿所「青濤館」があった。イチローをはじめとするスター選手が巣立った聖地だ。2017年3月に、合宿所は大阪市の舞洲に移転し、「青濤館」の名前も舞洲の施設に引き継がれた。

 山本をはじめ、山岡泰輔、山崎颯一郎、澤田圭佑、黒木優太ら2017年入団の選手たちは、神戸の「青濤館」に入寮した最後の代の選手だった。

 彼らは2017年1月に神戸「青濤館」でプロ生活をスタートし、3月に舞洲に引っ越したため、神戸で過ごしたのは2月のキャンプが始まるまでのわずか1カ月間だったが、その年1月9日に入寮した山本は、「この寮も、新しい寮も、両方で生活できるのはラッキーだなと思います」と屈託のない笑顔で話していた。

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