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<“無敵のエース”の原点>オリックス山本由伸18歳が最後の《神戸の青濤館》に入寮して見た「鈴木一朗」のネームプレート
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/11/30 11:07
中嶋監督から神戸でのマウンドを託されたオリックス山本由伸。日本一は逃したものの、エースとしての仕事は果たした
5月28日のヤクルト戦から11月27日の日本シリーズ第6戦までの6カ月間、東京五輪も含め、山本はすべて2失点以内に抑え、一度も負けがつかなかったというのは驚異的だ。それができた要因の1つは修正能力の高さである。
7月からバッテリーを組んでいる若月は、こう語っていた。
「ブルペンでは、力んでいたり、変化球がわけわかんないところに行ったりすることもあるんですけど、マウンドに上がればしっかり普通になっているので、さすがですよね。例えば試合中、『今日フォーク落ちないな』と思っていても、その回が終わってベンチに帰ると、『今日こうなってますよね。でも次の回から落とすんで、フォーク消しちゃダメですよー。もっとサイン出してくださいね』って言ってくるんです。次の回までに直すって、すごいなと思いましたね」
年々ストレートに磨きをかけ、変化球の精度が増し、引き出しも多くなっている。CSファイナルステージや日本シリーズでは、昨年まであまり多くなかったカーブが有効だった。
若月は、「サインは1つなんですけど、僕のジェスチャーとかによって、緩い110キロ台のカーブから、130キロ台のカーブまで使い分けて投げている。カーブだけで約20キロも差をつけられるので、それだけで打者は2球種ぐらいの感覚になっているんじゃないですかね」と言う。
そんな無敵のエース山本が、日本シリーズ第6戦で、自身最多の141球に魂を込め9回を投げ切ったが、打線の援護は1点のみで、試合の決着はつかず。延長10回から継投に入ったが、12回表に1点を奪われ、オリックスの2021年は幕を閉じた。
山本は今年、東京五輪金メダル、パ・リーグ優勝、CSファイナルステージ優勝、投手4冠、沢村賞と、ここまで獲れるタイトルはすべてつかみ取ってきたが、ただ一つ、日本一にだけは届かなかった。
だが23歳のエースはまだ成長の途上にある。周囲の想像が追いつかない進化の先に、日本一はきっとある。
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