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<“無敵のエース”の原点>オリックス山本由伸18歳が最後の《神戸の青濤館》に入寮して見た「鈴木一朗」のネームプレート
posted2021/11/30 11:07
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Hideki Sugiyama
時計の針は23時をまわっていた。
日本一に輝いたヤクルト・高津臣吾監督の胴上げを見届けると、オリックスの選手、スタッフはグラウンドに整列し、スタンドに挨拶した。終電を気にしながらも最後まで戦いを見届けた神戸のファンから、温かい拍手が送られた。
声には出せないが、「よく帰ってきてくれた」「ありがとう」という思いが伝わった。
神戸への帰還を決めた第5戦
その2日前、11月25日のことだった。
「#神戸に帰ろう」
この言葉がツイッター上にあふれ、トレンドワードとなった。
オリックスが11月24日の日本シリーズ第4戦に敗れ1勝3敗と追い込まれたことを受け、ファンが祈りを込めて発信した。25日の第5戦に勝てば、ほっともっとフィールド神戸で開催される第6、7戦に持ち込むことができるからだ。神戸での日本シリーズ開催は、オリックスが日本一になった1996年以来、25年ぶりとなる。
その第5戦は、まさに今季、中嶋聡監督のもとオリックスが掲げてきた「最後まで諦めずに戦う」を貫いた試合だった。8回裏にタイラー・ヒギンスが3点本塁打を浴び同点に追いつかれたが、9回表に代打で登場したアダム・ジョーンズが決勝本塁打を放ち、6-5で勝利。神戸への帰還をかなえた。
試合後のお立ち台で、中嶋監督は自ら第6戦の先発投手を宣言した。
「山本由伸で、タイに持っていきたいと思います」
その名をここで告げることが、ファンを沸かせるだけでなく、選手たちに勇気を与え、奮い立たせることにつながる。そんな計算もあってのことだろう。
山本には重圧になったかもしれないが、東京五輪の開幕戦や、韓国との準決勝という重圧のかかる大一番で結果を残してきた日本のエースは、やはり動じなかった。