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サイレンススズカはなぜ天皇賞・秋で骨折し“安楽死”したのか? 「殺さないで」ファンの声で手術をしたテンポイントは42日後に…
text by
江面弘也Koya Ezura
photograph byTomohiko Hayashi
posted2021/10/31 06:01
98年の宝塚記念にて、エアグルーヴら強豪を押さえGI初勝利を収めたサイレンススズカ
なぜ骨折だけで馬は安楽死にされるのか?
痛ましい事故がおきるたびに、いつも、だれかが、おなじ疑問を口にした。
どうして骨折しただけで馬は安楽死にされるのですか――。
サラブレッドの体重は小柄でも400kg、大きな馬は500kgを超える。それを細い四肢で支えている。500kgの馬が全力疾走したとき、1本の脚にかかる荷重は数トンにものぼるという。細い脚にそれだけの負荷がかかっているのだから、脚の故障は競走馬の「職業病」ともいえるだろう。
統計ではレースに1000頭出走すれば、1.4から1.7頭ぐらいの割合で骨折する馬がいるそうだ。もちろん、骨折には「ひび」や小骨片が剥がれた「剥離骨折」など軽傷もあれば、治療しやすい箇所の骨折もあるから、トウカイテイオーやグラスワンダーのように数カ月の療養を経て復帰してGIレースに勝った馬も多い。タニノチカラ(1年8カ月休養)とホウヨウボーイ(1年9カ月休養)は骨折が重なり、長いブランクを経て競走馬として復帰し、天皇賞、有馬記念に勝った名馬である。
一方、サイレンススズカのように骨が粉々に砕けた状態になる「粉砕骨折」や、ライスシャワーのような骨片が皮膚を突き破る「開放骨折(脱臼)」などは治療がむずかしい。
苦痛を与えたうえに治癒する見込みが薄いならば…
また、馬の骨折治療を困難にする原因のひとつが体重である。骨折箇所をギプスで固定したり、ボルトでつなぐ手術を施しても、大きな体を3本の脚で支えることになる。馬は脚に痛みがあると寝起きができず、健康な脚にかかる負担は大きくなる。その結果、負荷がかかった脚の蹄に蹄葉炎(蹄内部の血液の循環が阻害されることで炎症をおこし、激しい痛みをともなう疾病)を発症したり、痛みやストレスから別の病気や怪我を誘発してしまうのだ。治療を施しても、馬に苦痛を与えたうえに治癒する見込みが薄いならば、安らかに眠らせてあげようというわけである。
「テンポイントを殺さないで」名馬を襲った“悲劇”
そうはいっても、愛馬は簡単に殺せない。なんとか命だけは、と願うのが人情である。しかし、一縷の望みをかけて手術を施したことが馬を苦しめる結果にもなることがある。その現実をわたしたちに教えてくれたのがテンポイントだった。