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<“育成の広島”のドラフト戦略>若手の左腕が多いのに…カープがさらに“即戦力”左腕を1位と2位で指名したワケ
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKYODO
posted2021/10/26 11:03
佐々岡監督から1位指名の挨拶を受ける黒原拓未(関学大)。色紙には目標を「新人王」と記した
かつて、広島は左腕不足と言われていた。ただ、近年のドラフト戦略で戦力バランスは変わりつつある。今季は先発ローテーションに、床田寛樹、高橋昂也、玉村昇悟の3人が名を連ね、中継ぎでも森浦大輔や塹江敦哉が勝ちパターンを経験するなど、左腕の台頭が目立つ。それは広島のドラフト戦略による、狙いのひとつだ。年齢的にもまだ若い左投手が多い中で、さらに即戦力左腕を2枚加えた。
佐々岡真司監督は「より一層、左を強化したいという部分もあった。競争になると思いますけど、みんなが負けない気持ちになれば、チームの中でもレベルアップするんじゃないかなと思います」と左投手の底上げにつながる指名を歓迎している。
野手では、社会人の中村と末包と、“長打力のある右打者”を2選手獲得した。
今季、広島のスタメンは左打者が多く占め、補強ポイントのひとつだった。ただ、右打者を求めるチーム事情は、広島だけではないだろう。今年のドラフト会議前日の10日のプロ野球6試合でスタメン出場した野手の割合は右打ち49人に対し、左打ち53人だった。相手の先発が左右のどちらかで多少の変動があるとはいえ、もはや右投げ右打ちが主流だった時代は過ぎ去った。昨年のセ・パ打撃十傑は両リーグともに7人が左打者で、ともに上位6位までを左打者が占めた。
左打者が増えている時代の流れもあるだろう。例年、スカウト網にかかる好素材の野手も左打ちが多い傾向にあるという。
上位2位まで即戦力左腕を指名した背景にも、そんな理由がある。左打者が多ければ、その分左投手の需要も増す。右打者と左打者の割合のように、右投手、左投手の割合も変わっていくのかもしれない。
待たれるのは新世代のさらなる台頭
「育成の広島」を支えているのは、スカウト力だ。
過去10年の主な指名選手は以下の通り。
11年 1位野村祐輔、2位菊池涼介
12年 2位鈴木誠也、3位上本崇司
13年 1位大瀬良大地、2位九里亜蓮、3位田中広輔
14年 1位野間峻祥、2位薮田和樹、3位塹江敦哉
15年 1位岡田明丈、5位西川龍馬
16年 2位高橋昂也、3位床田寛樹、4位坂倉将吾
17年 3位ケムナ誠
18年 1位小園海斗、2位島内颯太郎、3位林晃汰
19年 1位森下暢仁、2位宇草孔基、5位石原貴規、6位玉村昇悟
20年 1位栗林良吏、2位森浦大輔
今年一軍でプレーした選手が各年にいることからも、安定した補強ぶりが分かる。今季中軸を打った西川は5位、坂倉は4位。高卒2年目で早期一軍ローテに定着した玉村も6位だった。下位指名であっても、早期に戦力となる可能性も十分ある。