酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
《ドラ1同級生、2年目の覚醒》佐々木朗希・奥川恭伸・宮城大弥は高3の夏、笑顔の戦友だった… 新世代エースの意外と知らない“こぼれ話”
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2021/10/18 11:02
2019年U-18日本代表での奥川恭伸、宮城大弥、佐々木朗希。2年後の今、日本球界を支えるエースになる予感を漂わせている
スポーツクリニックで「この時期を無理をさせると……」
2019年春、筆者はあるスポーツクリニックの取材をしていた時のことだ。
診察室から見上げるような長身の野球選手と指導者が出てきた。佐々木朗希と大船渡高校の國保陽平監督だった。「書くなよ」とドクターから釘を刺されたので当時は書かなかったが、このとき佐々木は自身の肘の状態をチェックしていたようだ。「この投手は、まだ骨端線が閉じていない(骨の成長が続いている)。この時期に無理をさせると将来に影響が残る」というドクターのアドバイスがあったと國保監督は語っている。
國保監督は、筑波大学体育専門学群卒業。大学の硬式野球部では川村卓監督(現准教授、当時は講師)に師事した。川村先生からは野球だけでなくスポーツコーチング学なども学んだ。卒業後は、米独立リーグでプレーした後に高校野球指導者となった。この経歴から見てもわかるように「甲子園至上主義」ではなく、アスリートの将来を考える視野の広い指導者だ。この年夏の岩手大会で、佐々木は甲子園出場がかかる決勝戦に登板せず、チームは敗れた。
佐々木を投げさせなかったことには非難の声が上がったが、國保監督の意志は揺らがなかった。そして秋のドラフトで4球団競合の末にロッテに入団が決まるのだ。
ロッテの吉井投手コーチと國保監督は“同門”
ロッテで投手陣を指導したのが吉井理人投手コーチ。吉井コーチは引退後、筑波大学大学院に学び、川村卓准教授に師事している。つまり高校とプロでの佐々木の指導者は「同門」である。吉井コーチは筆者に「筑波大学には、様々な競技でオリンピックのメダリストになった教員がいる。そういう先生方からスポーツの多様さ、奥深さを学んだ」と語った。やはり視野が広い指導者なのだ。
佐々木朗希はある意味で、理想的な進路を選んだと言える。ただ、甲子園に出なかったために実戦で佐々木のマウンドを見た人は非常に少ない。だから「秘密のベール」がかかったような存在ではあった。
2019年夏、3人はチームメートとして戦っていた
実はこの3人、チームメイトだったことがある。2019年のWBSC、U18ワールドカップだ。韓国のプサン郊外の機張(キジャン)で開催された大会で、3人は揃って侍ジャパンのユニフォームにそでを通した。
筆者はこの大会を観戦した。