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「僕は目を背けようとしていたので」斎藤佑樹が引退試合後に語った“第二の斎藤佑樹”への助言とは《ドキュメント“最後の2日間”》
posted2021/10/18 11:03
text by
田村航平(文藝春秋)Kohei Tamura
photograph by
KYODO
プロ野球選手になった、と実感したのはいつか。かつて斎藤佑樹にそう尋ねたところ、彼はしばらく考え込んでしまった。
「プロになった実感、か。いつだろう、難しいなあ……」
高校、大学のときからすでに有名人で、プロ入りしたときには大勢の人に囲まれることに慣れていた。
「初めてお立ち台に立ったときかな。初登板で勝利投手になって。これがプロのヒーローインタビューかって。お立ち台っていうシステムは、アマチュアにはないじゃない」
2011年4月17日、札幌ドームでの千葉ロッテ戦。斎藤は5回4失点で白星デビューを飾り、お立ち台でこう話している。
「野球を始める前からの夢が、このお立ち台に立つことだったので、ひとつ夢を叶えられて、嬉しく思います。またヒーローインタビューに来られるように頑張ります」
それから10年以上が経ち、2021年10月17日に同じ球場で斎藤の引退試合が行われることになる。
「寂しい気持ちはありました」
その前日、10月16日に斎藤は一軍の練習に合流した。
午前10時過ぎ、センター後方で投手陣の練習に加わる。ストレッチ、ダッシュ、キャッチボール。チームメイトと言葉を交わし、笑顔も多く見られた。明日に引退試合を控えている投手とは思えないほど、自然な光景だった。練習を終えると、報道陣に対応した。
「この時間もあと2日だけなんだと思うと、寂しい気持ちはありました。くだらない話ばっかりしていたんですけど、そんな話も、もうプロ野球選手としてすることはないので。楽しい時間をかみしめている、という感じです」
明日の登板では変化球も交えて今の全力を出す、と決意を表明した。
「(対戦相手のオリックスは)優勝争いをしているチームなので、頑張って抑えられるように準備したい」
この日の試合中、明日の予告先発が上沢直之と発表される。投手の引退試合は、先発して打者1人に投げて交代、というケースもあるが、斎藤の場合はそうではないようだ。