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柳田、千賀、甲斐…ホークス「豊作の10年ドラフト同期組」で遅れてきた男・牧原大成28歳の逆襲 小久保コーチも「いま、外せない存在」
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKYODO
posted2021/09/12 17:03
9月2日の楽天イーグルス戦。牧原大成が則本昂大から初球先頭打者本塁打を放った
牧原大は遅咲きの選手だ。入団2年目の6月には早々に育成枠を卒業して支配下登録されたが、一軍でブレイクの兆しを見せたのは入団8年目の2018年シーズンだった。夏場以降にチャンスを掴み、出場59試合で打率.317をマークしてみせた。
かつて当連載(2018年9月12日)で<初球打ちの打率5割2分5厘。ホークスの新1番打者、牧原大成が超積極打法でヒットを重ねている>と当時の活躍を記している。
とにかく仕掛けの早さが特徴だった。シーズントータルで249打数79安打をマークした内訳を見ると、初球打ちが47打数22安打だった。打率.468の好成績を残した一方で、初球打ちは打数全体の18.9%を占めた。これを2球目以内まで広げると100打数になり、全体の40.2%まで跳ね上がった。
追い込まれる前に打ちにいく方が打者有利なのは当然だ。また、「狙い球を1球で仕留める」というスキルの高さでもある。
「もったいない選手」牧原は何が変わったのか?
だが、牧原大は以降のシーズンで苦しんだ。一昨年、昨年と2年続けて打率2割4分台と低迷した。相手だって研究をしてくる。初球や2球目は、敢えて「ボールになってもいい」と際どい球で勝負された。あの頃の牧原大はそのボールに飛びつき、カウントを悪くして不利な状況を自ら作ってしまっていた。
「一昨年までは敵チームの一人として彼を見ていましたが、真っ直ぐならば160キロでも付いていくというイメージだった。カウント球でストレートは放るなと言っていたくらいでした。スイングスピードが速い。だけど、点で打つタイプだった。もったいない選手だなという印象でした。
それが去年の後半くらいからスイングのイメージを変えて、そこから幅が広がったように見えます。ボールの待ち方も変わった。変化球にも対応できるような、スイングに奥行きが出来るようになった。ミートの幅が広がることで選球眼も良くなったように感じます」
そのように説明したのはかつてイーグルスで監督も務め、現在はホークスの一軍打撃を担当する平石洋介コーチだった。
今年の牧原大は以前と違う。9月6日までの打撃内容を見ると、127打数42安打(打率.331)のうち、初球打ちは12打数5安打。1球で勝負をつけたのは全体の9.4%だ。2球目以内は38打数16安打で、こちらは全体の29.9%となっていた。
振り返れば、今年のホークスは「率にこだわる」がテーマだった。
「ウチの選手は四球が多いわけではない。四球の差が昨年ロッテに対して1つ勝ち越せなかったところ。やはり粘っこく。フォアボールでも塁に出る。粘っこい打撃をしてくれると、出塁率も変わってくる」(工藤公康監督)
首脳陣のニーズにもがっちりハマる1番打者がいれば、チームの戦いぶりはかなり安定するだろう。ただ、彼自身に慢心はない。
外せない男は「もう外れない」という気概を持って、終盤戦のキーマンとして躍動し続ける。