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五輪惨敗から1カ月…桐生祥秀「走り方からぜんぶ変えました」 日本スプリント勢が世界と戦えなかった“2つの理由”
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph byJIJI PRESS
posted2021/09/04 11:03
東京五輪で惨敗した日本のスプリント勢。再スタートした選手たちの証言から「何が必要なのか」を考える
今季はナイキの『ズーム スーパーフライ エリート 2』というモデルを着用してきたが、福井では前足部にエアが搭載されている『エア ズーム マックス フライ』(以下、マックスフライ)を選んだのだ。
「スパイクを替えたのもあって、接地だけでなく、走り全体のリズムが少し変わったような印象が自分のなかにありますね」
小池のなかに“変化”があったようだ。東京五輪の男子100mに出場した小池、山縣、多田はナイキの契約選手。3人とも今季は『ズーム スーパーフライ エリート 2』を着用していたが、世界は違った。男子100m決勝は8人中5人、女子100m決勝は8人中7人がマックスフライを着用していたのだ。
マックスフライがどれだけの爆発力を持っていたかというと、男子100mは蘇炳添が9秒83のアジア記録、優勝したラモントマルセル・ジェイコブス(イタリア)が9秒80(+0.1)の欧州記録を樹立。女子ではエレーン・トンプソン=ヘラ(ジャマイカ)が100mと200mで世界歴代2位となる10秒61と21秒53(+0.8)というスーパータイムを叩き出している。
他のスプリント種目でもマックスフライ勢が記録を伸ばす大躍進ぶりに、男子400mハードルで45秒94という驚異的な世界記録を打ち立てたカルステン・ワーホルム(ノルウェー)は、「スパイクの下に何かを入れる理由が分からない。あのせいでスポーツの信頼性が薄れる」とナイキのエアつきスパイクを批判したほどだ。なおワーホルムが履いているスパイクはプーマとメルセデスのF1チームが共同開発したものだった。
小池、山縣、多田はマックスフライを履くこともできたが、その選択をしなかった。新たなテクノロジーを搭載したモデルではなく、履きなれたモデルを選んだのだ。コロナ禍で海外勢と戦う機会を失っていたこともあり、日本勢は世界のトレンドから一歩遅れていたことになる。
絶好の条件で出された9秒台では勝てない
また東京五輪の男子100mを制したジェイコブスは昨年までのベストが10秒03で、大会前の自己ベストは日本記録と同じ9秒95だった。予選は山縣と同じ3組を自己新の9秒94(+0.1)でトップ通過。準決勝3組は3着ながら9秒84(+0.9)の欧州記録をマーク。プラス通過を果たすと、決勝では9秒80までタイムを短縮して、世界的なヒーローになった。
本番でいかにタイムを上げていくのか。日本勢の課題は明確だ。恵まれた条件以外でも、9秒台に近いタイムで走れるくらいアベレージを引き上げなければならない。