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「着替える場所がない」「まだ男性を背負えない」山岳遭難救助隊に入った女性隊員(27歳)のタフな毎日《遭難事故年間200件》
posted2021/08/07 17:02
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph by
Sho Fujimaki
長野県警の警察官であるトレイルランナー秋山穂乃果が、この春から山岳遭難救助隊員に任命された。トレイルラン競技に取り組む女性アスリートが山岳救助の世界に飛び込むのは、初めてのことだろう。その秋山に話を聞いた(全2回/前編へ)。
長野県警の山岳遭難救助隊は全国で初めて女性隊員が誕生した部隊だ。1994年から数えて、秋山は歴代12人目の女性隊員となる。山岳救助では並外れた体力に加えて、山の知識、技術が求められるため、これまで所属した女性隊員のなかには、体力的な不安により短い期間でリタイアした者もいるという。
現在、隊員は39名おり、県内で年間200件前後発生するという遭難事故に対応している。隊は県警の山岳安全対策課を本部とし、地上をカバーする「機動隊」、ヘリコプター救助を専門とする「航空隊」、そして各地の警察署地域課に所属する部隊の3つに分かれている。秋山は地域課所属で、日頃は松本市内の交番に勤務し、遭難事故が発生すると隊の制服に着替えて現場に出動する。まだ入隊して間もないが、5月の涸沢常駐勤務では、高山病で動けなくなった登山者の救助などに初めて携わった。
秋山のほかにもう一人、5年先輩の女性隊員が所属している。ジムに通って地道にトレーニングを重ねているというその先輩隊員と、厳しい現場に身を置く女性ならではの悩みや課題などを共有することはあるのだろうか。
「先輩はもう経験を重ねているので、いま自分が躓きを感じているようなことに悩んでいないんです。たとえば訓練中に雨や汗でウエアが濡れてもそのまま動き続けなければならなかったり、着替える場所がなかったりといったことに私はまだ難しさを感じています。でも先輩はもうそういう悩みは乗り越えていて、悩みのポイントというか、レベルがすでに違うことを実感しています」
遭難現場では約20kgを背負う
かつての山岳救助活動は山小屋関係者が主体となっており、警察も携わってはいたものの装備などがまだ不十分だった。その後、各地で遭難対策協議会が発足し、1959年に長野県警で初めて山岳警備訓練が行われる。翌年から「長野県警察山岳パトロール隊」により夏山パトロールが行われるようになり、その隊を母体として、1966年に「長野県警察山岳遭難救助隊」が発足した。