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「着替える場所がない」「まだ男性を背負えない」山岳遭難救助隊に入った女性隊員(27歳)のタフな毎日《遭難事故年間200件》
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph bySho Fujimaki
posted2021/08/07 17:02
日本のトップトレイルランナー・秋山穂乃果(27歳)は3年前に警察官に転身した
今回、秋山も参加した岩場の訓練では、県内各地から隊員たちが集い、60L程度のザックに10kgの装備を詰めて垂直下降などの訓練を行っていた。実際の遭難現場では救助用具、野営用具、食料など約20kgを各自が背負うという。
登山人口全体でいえば女性登山者の比率は少なくないが、遭難者の割合だけを見ると、7対3で男性が多い。女性隊員の場合、自分よりも体の大きい男性遭難者を背負うのは、体力や技術が必要だ。その代わりに、女性隊員は男性隊員とは異なる役割を担うこともある。
「遭難対策は防止が第一ですから、山での啓蒙活動には力を入れています。そうした活動では女性隊員の方が登山者とのコミュニケーションがソフトだったりするんです。山では女性ならではの悩みもありますので、とりわけ女性登山者に耳を傾けてもらいやすいところもあると思います」(長野県警山岳安全対策課次長 櫛引知弘さん)
「もっと何かできなかったか」遭難者が亡くなることも
遭難現場は「死」に近い場所だ。最初はどんな隊員でも、何が危険で何が安全かなかなか掴めないものだと櫛引さんはいう。現場で経験を積み、先輩たちの話を聞きながら学んでいくしかない。救助では怖い思いをすることも当たり前のようにある。そんな現場で生きる隊員にとって、もっとも大切なことは何なのだろう。
「やはり正義感ですね。もちろん、正義感が強すぎて猪突猛進では困るのですが、人を助けたいという強い想いがないと乗り越えられない仕事です。緊迫する状況下で自分をどう奮い立たせるかとなると、やはり正義感が不可欠なんです。救助したいという強い気持ち、奉仕の精神がないと挫けてしまうと思います」(櫛引さん)
事故現場に駆けつけて遭難者を助け出しても、残念ながら搬送中に亡くなってしまうこともある。そんなとき「もっと何かできなかっただろうか」と自問自答を繰り返すという。だからこそ隊員たちは「自分に何ができるか」を日々考え、研鑽を積んでいるのだ。
女性隊員は体力が伴わないと男性遭難者を背負えない
櫛引さんは秋山のことをこう評価する。