「救助隊員としてはまだ基本的な動作を覚える段階です。ただ秋山が競技者として頑張ってくれることで、うちの救助隊の活動を伝えるのは彼女だからできること。こういう女性隊員が長野の山を守っていると知っていただくことで、『登山では気をつけよう』『頑張ってくれている人たちがいるんだな』と思っていただけるだけでも嬉しいですね」（櫛引さん）

　秋山の上司である岸本俊朗隊長は信州大学山岳部出身で、自らもトレイルランレースに出場するランナーだ。レースでは秋山の方が速いが、当然のごとく山ではまったく歯が立たない。重い荷物を背負って動く筋力はトレイルランとはまったく異なることを知り、だからこそ足りない部分を補いたいと練習に励む。

「春先、訓練で雪山に登ったんです。女性のなかでは体力がある方だと思っていましたが、男性隊員と比べると全然違って体力の差を目の当たりにしました。現場で何ができるのかと常に考えています。男性女性関係なくできることを見つけて対応できるだけの経験値や技術を早く身につけたい」

　たとえば雪の斜面での救助なら、足許の雪を固めて遭難者を搬送する隊員が歩きやすいように準備する、道なき道を歩くときには先周りして道を調べる。「できることはいくらでもあるよ」と先輩たちから心強いアドバイスをもらう。

©Sho Fujimaki

夜勤明けでジムへ…なぜ睡眠不足で練習するのか？

　訓練、現場で山岳遭難救助隊員としての技術・体力を磨いている秋山だが、ランナーとしてのトレーニングで意識しているのは精神面の強化だという。

　日常の交番勤務は三交代制で、朝8時に出勤して、翌日10時頃に帰宅、その後2日が休みになるというサイクル。松本署に赴任した当初は、夜勤明けに一度寝てからジムに通っていたが、いまは夜勤明けにそのままジムへ向かい、筋トレをしてトレッドミルで走っている。睡眠不足のままでなぜ練習をするのか。

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