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「競走はいわば決闘だ」最速のFWムバッペが語る“スピード”「若いころは相手を置き去りにする楽しさがあったが…」
text by
パスカル・フェレPascal Ferre
photograph byL’Équipe
posted2021/07/11 17:01
2018年W杯では19歳183日での最年少得点を記録するなど、縦横無尽の活躍でフランスを優勝に導いた
――競走では最初の数メートルと最後の数メートルのどちらが好きですか?
「最初が好きだね。その瞬間にスピードに乗って相手に負荷をかける。また僕に主導権があることを相手に誇示できる。
僕は自分のスピードが、相手にとってどれほどの脅威であるかを知っている。通常は守備ラインをセンターライン付近まで上げるチームも、僕らと対戦するときはゴール30m前までラインを下げる。それはバイエルン・ミュンヘンのように、高いラインを保つことで知られるチームでも同じだった」
――今やあなたのスピードにどう対処するかが対戦相手の重要な戦略です。プレーし難くなりましたか?
「W杯以降は1対1の局面を迎えるのが稀になった。相手は1対1になるのを極力避けようとして、モナコ戦のように常に2~3人が圧力をかけてくる。最初は難しかったけど、今は前線に孤立することなくうまく対応できるようになった」
重要なのはスピードをコントロールすること
――俊敏さを保ちながらですか?
「もちろんそうだ。自分の能力に合ったフィニッシュのやり方を覚えるために、マウリシオ・ポチェッティーノと十分にトレーニングを積んだ。相手ゴール前に到達する際の僕のスピードは時速37~38.5㎞で、時速26㎞の選手とは大きな違いだ。ゴール前でスピードをうまくコントロールするために、スピードを落とす方法を覚える。シュートゾーンに入る前の動き方を集中的に練習した。そこから先になるとGKに近づきすぎて、シュートのアングルが限定されてしまう。うまくいっていると思うのは、今季はGKやディフェンダーに対応する時間を与えずに、シュートを早めに打つことで得点を重ねているからだ」
――スピードが最大の武器である選手が、スローダウンを学ぶというのは驚きですが……。
「スローダウンとは言っていないよ(微笑)。誰もスローなプレーを望んでいるわけじゃない。僕が学んだのはスピードをうまくコントロールして、たとえば時速38㎞から33㎞に落としてゴールにアプローチすることだ。そのぐらいのスピードが、ディフェンダーが出せる最高速で、僕も慌てることなくより正確にフィニッシュができる。僕はヨーロッパで最も多くのゴールチャンスを作り出す選手かも知れないが、最も多くゴールをあげる選手ではない。ポチェッティーノはフィニッシュさえ正確ならシーズン60得点は十分に可能だと言った(今季はPSGで42得点)。早く自分の能力に相応しいレベルに到達すべきだと。彼は正しいと僕も思う」
――スピードのコントロールには練習が必要なのですね。
「コントロールできなかったらミスを繰り返し、スピードが逆に欠点になる。学び、適応していく必要がある。時速37㎞でボールをコントロールするのは25㎞でコントロールするよりもずっと難しい」
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