フランス・フットボール通信BACK NUMBER
「競走はいわば決闘だ」最速のFWムバッペが語る“スピード”「若いころは相手を置き去りにする楽しさがあったが…」
text by
パスカル・フェレPascal Ferre
photograph byL’Équipe
posted2021/07/11 17:01
2018年W杯では19歳183日での最年少得点を記録するなど、縦横無尽の活躍でフランスを優勝に導いた
――別の人生を歩めるとしたら、五輪の100m決勝を走りたいと思いますか?
「それができたら最高だね。モナコで練習していたとき、ピッチの横に陸上トラックがあって、100mを走ったけどとても長かった。あれほどとは思わなかった。あれだけ強度の高いスプリントをあれほど長い時間続けるのはまさに職人芸だ。僕にはとてもできない。勢いよくスタートして思い切り走るというような単純なものじゃない」
――100mのタイムはどのぐらいですか?
「実は覚えていないんだ。大したものじゃない。平凡な記録だったと思う。機会があれば、もう一度測ってみたいけど」
――本物のスプリンターと競い合う日がいつか来ればいいと思いますか?
「もちろんだ。でもトップクラスとはやりたくないね。僕が勝ったら大ごとになるから(笑)」
――かつて10種競技の世界記録保持者であるケビン・マイヤーが、フランス・フットボール・ドットコムであなたに挑戦したいと言っていましたが……。
「知っている。僕らは同じ弁護士(デルフィーネ・ベルエイデン)と契約していて、彼女が僕に教えてくれた。僕はいつでも構わないよ」
スピードは才能のみにあらず
――いつのころから自分が人より速く走れると気づきましたか?
「かなり早かった。スピードは天性のもので、もともと速いかそうでないかだ。瞬発力は人々の眼をくらませ、網膜に焼きつく。サッカーのように才能に気づくまでに時間はかからない」
――自分のスピードがサッカーでも武器になると気づきましたか?
「少年サッカーでは戦術はあまり関係ない。誰もがボールに向かって走る。そして最も早くボールに触ったものが他を引き離す。生まれ持った能力を、僕はさらに高めようとした。スピードこそが、僕と他人を分かつと理解したからだ。
必要なときだけダッシュをすればいいと、持てる能力を眠らせてしまうのは大きな間違いだ。スピードは天性の能力ばかりではない。磨いていくための特別なトレーニングもたくさんある。座骨を損傷したとき、僕はサッカー選手がおこなう通常のリハビリはしなかった。自分の能力と身体に合った独自のリハビリをおこない、それはディフェンダーやミッドフィルダーのリハビリとはまったく異なっていた」