――競走で相手を引き離すのはどんな気持ちですか？

「競走はいわば決闘だ。若いころは相手を後方に置き去りにする楽しさがあった。今は走った後のアクションにより重きを置いている。速く走っても、それが何の役にも立たないのではまずいだろう。スタートダッシュに成功すれば、それだけでイニシアチブをとれる。自分の速さに自信があれば、他を気にする必要はない。じっさいに僕は何も気にしていない。ずっとこんな感じでボールだけを気にしていて、僕を捕まえようとする相手はほとんど眼中にない」

――最後に競走で負けたのはいつか覚えていますか？

「競走で？（笑）　いつか負けるかも知れないけど、負けた記憶はないね。この質問をするならば、誰か具体的な選手の名前を出すべきだろう。違うかい？」

ムバッペが認めるスピードスター

――たしかに誰も思いつきません。ではピッチの上で、速さが印象に残っている選手は誰ですか？

「スピードが印象に残ったのはレンヌのジェレミ・ドクだ。プロで5年過ごしたけど、彼ほど力強く踏み込む選手を見たのははじめてだった。もの凄いスピードということでは、ピエール・エメリック・オーバメヤンの名前をあげたい。ケガする前のネイマールも速かった。彼は高速のまま方向を自在に変えることができた。そこまでの瞬発力はないけどマンチェスター・シティのカイル・ウォーカーは、いったん加速すると戦車のような迫力がある」

EURO2020では4試合に出場するもノーゴール。フランスは決勝トーナメント1回戦敗退となった

――速い選手という評判を得ると、練習でもそのイメージを守るのは重要ですか？

「それは違う。チームメイトと信頼関係を築くことの方が重要だ。PSGではスピードを強化するためのセッションもある。アレッサンドロ・フロレンツィが常に僕のパートナーで、『君のすぐ後についていければ、試合でどんなフォワードにも抜かれない』と言うんだけど、問題は彼が僕のすぐ後ろで走り終えたのが一度もないことだ（笑）」

――思い出すのは2018年のアルゼンチン戦（ロシアW杯ラウンド16。4対3でフランスの勝利）です。あなたは縦横無尽に走り回っていました。

「問題はそれが得点へと至らなかったことだ（笑）。スピードに自信があり相手よりも先に進めるとわかっているから躊躇なく競走できる。少し前のモナコ戦（フランスカップ決勝。2対0でPSGの勝利）ではうまくいった。フィニッシュに至るまでに、多くの選手を振り切らねばならなかったけど。長い距離の競走は大好きだ」

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