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100m日本記録ランナーがプロ野球に転向したら…盗塁はいくつできた? 五輪銀メダリストが語る「50m走と100m走の決定的な差」
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byJMPA
posted2021/07/09 17:05
08年北京五輪の男子4×100mリレー。3走の髙平慎士からアンカーの朝原宣治にバトンパス。
「例えば、今年5月にアメリカで俊足のアメリカンフットボールの選手が100mの試合に出たことがありましたが(記録は10秒37)、“足が速い”と言っても、陸上のトップレベルに当てはめると平凡なタイムでした。トップスピードに達してから残りの距離を走る練習をしていないから、当然の結果ともいえます。もちろん、体格や陸上のトレーニングを行っていないということを考慮すると速いですけどね。
つまりは、そもそも“足が速い”という定義が、陸上競技と他のスポーツとでは違っているのです。
それに、陸上の場合は自分のレーンが確保されていて、誰にも阻害されずに前を見て走ればいいのですが、野球やサッカーの場合は、ボールの位置を意識したりと、状況判断しながら走ることが求められる。陸上競技と他のスポーツとでは、走るという同じ行為でも、性質がまったく違います」
100m走の日本記録保持者がプロ野球に転向したが……
高平さんの言葉を裏付けるように、過去にはこんなエピソードもある。
1964年の東京五輪、68年のメキシコ五輪に出場し、100mの日本記録保持者でもあった飯島秀雄は、68年のドラフトでロッテ・オリオンズに入団。代走要員として期待されたが、実働3年間で117試合に出場し、通算盗塁数は23で、盗塁失敗は17という成績だった。陸上界のレジェンドに対して失礼な表現になるが、トップスプリンターといえど、競技が変われば、同じ走力が求められる場面で期待された活躍を残すことはできなかった。
つまりは、高平さんが言うように“足が速い”ということを、一括りにしてはいけないということだ。“走る”と一口に言っても、実はこんなにも奥が深い。
「頭が良い子は出題する側に回れる」
それにしても、高平さんの解説はとても分かりやすい。
2017年に現役を引退した後は、富士通のコーチとして後進の指導に当たっているだけでなく、テレビなどの解説者としても活躍しているのも頷ける。発売中のNumberPLUS「五輪の学校2021」でも、注目の男子4×100mリレーの見どころと日本チームの勝負のポイントを、自身の豊富な経験と、冷静な現状分析をもとにわかりやすく解説してもらった。
いつ頃から高平さんは、陸上競技について、自分の言葉で話すようになったのだろうか。
「僕は、学業の観点でいうと、高校生の時はあまり頭がよろしいほうではなかったんです(笑)。一方で競技のことについては色々と学んで深く考えるようになっていきました。その変化は順天堂大学に入ってからで、当時から体の動きや練習の意味を自分の言葉で話せないと、ちゃんと理解したことにはなっていないと思いながらトレーニングしていました」