Number ExBACK NUMBER
100m日本記録ランナーがプロ野球に転向したら…盗塁はいくつできた? 五輪銀メダリストが語る「50m走と100m走の決定的な差」
posted2021/07/09 17:05
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph by
JMPA
子どもの頃、“足が速い”ことは、何よりもステータスだったはずだ。運動会の徒競走で1番になるということは、クラスの人気者であることと大きく結びついていたのでは……。大人になって、そんなことに思い当たりはしないだろうか。
北京五輪の男子4×100mリレーで銀メダルを獲得した高平慎士さんも、当然のことながら、子どもの頃から足が速かった。小学4年生の時に先生に勧められて出場した市内の陸上大会で、たまたま一番になったことが陸上競技選手としての出発点。当時は野球少年で白球を追いかけることに夢中だったが、次第に走ることのほうが楽しくなっていった。
高平さんの場合、小学生の頃にはすでに北海道旭川市で“最速”の称号を手にしていた。だが、第一線で活躍しているトップスプリンターが皆、子どもの頃から身の回りで一番足が速かったのかというと、高平さんいわく、必ずしもそうとは限らないという。
「トップ選手たちの話を聞いていると、学校内では、サッカー部だったり、野球部だったり、他の部活動の生徒のほうが速いことって結構あるんですよね」
意外なことのようにも聞こえるが、実際、野球のリードオフマンやサッカーのフォワードの50m走のタイムがたびたび引き合いに出されるように、俊足は他のスポーツでも武器になる。
また、今回の東京五輪代表でいえば、小池祐貴は中学までは野球部のエース、デーデー・ブルーノにいたっては、高1の秋までサッカー部に所属しており、他の部活動から転身して大成した選手もいる。
確かに、“校内最速”は、陸上部ではなく、他の部活動にいることも多い。
なぜ“俊足”アメフト選手のタイムは平凡(10秒37)だった?
ただ、「彼らが勝負を挑んでくる場合って100mという距離ではないんですよね……」と高平さんの言葉は続く。
「僕らは100mや200mという距離で速く走ることを求めています。100mの選手はだいたい50~60mで最高速度に達し、そこからの減速をいかに抑えるかを普段のトレーニングで目指しています。そこに、陸上競技のプロフェッショナル性があります。
一方で、走ることを専門としていない人たちにとっては、陸上競技のオリンピック種目で一番短い100mという距離でさえも、日常的に走る距離ではありません。“足が速い”は体育の授業の50m走が基準に語られることが多いですし、実際には30mぐらいで全速力になるという感覚の人が多いのではないでしょうか」