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【松山英樹マスターズ優勝】「ザ・マツヤマ」という名のショータイム…見事な勝ちっぷりを予感させた変化とは?「自分が正しいと思い過ぎていた」
posted2021/04/12 11:03
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Getty Images
あの日から10年。松山物語には筋書きがあった。
2位に4打差の単独首位でマスターズ最終日を迎えた松山英樹が、1番ティに向かおうとしていたとき、米国のTV中継で解説を務めていたニック・ファルドは、こう言った。
「マツヤマは米ツアー5勝の実績を持つ。しかし、これから挑む戦いは、その5勝とはまったく異なるステージなのだから」
その通りだとは思ったが、しかしその5勝以外にも、松山はさまざまなステージを踏んできている。とりわけ、このマスターズ出場は今年が10度目。大学生のうちから挑み始め、この日を迎えた彼の長い長い日々は、何にも負けない武器になる。
そう信じたことは、それから間もなく現実になった。
3番ウッドを握った1番の第1打は大きく右に曲がり、震えるようなスタートになった。いきなりボギーを喫し、4打もあった2位との差は、瞬間的に1打に縮まった。
だが、パー5の2番ですぐさまバーディーを奪い返した松山は、3番でグリーン奥から見事な寄せワンでパーセーブ。2位との差は再び3打へ開き、ようやく安堵の色を見せた。
その安堵は徐々に自信に変わり、5番は再びボギーのピンチをしのいでパーを拾った。6番、7番はぎりぎりでバーディーを逃がしたが、パー5の8番では当たり前のようにバーディーを奪い、9番ではピン1.5メートルに付けて連続バーディー。2位に5打差で後半へ折り返した。
「ザ・マツヤマ」という名のショータイム
勝利に向かって一気に駆け抜けるかに見えたバック9の終盤、松山はこの日2度目のピンチに見舞われた。同組のザンダー・シャウフェレが12番から4連続バーディーで猛追をかけ、15番でボギーを喫した松山に2打差まで迫った。
しかし、シャウフェレは16番で池に落とし、トリプルボギーで自滅。松山もボギーを叩いたが、すでにホールアウトしていた2位との2打差は、それ以上、追い上げられない2打差となり、上がり2ホールを迎える松山のプレッシャーを軽減してくれた。
最後ばボギーとなったが、4日間を通算10アンダーで回り切り、日本人として、アジア人として、初めてマスターズを制覇した。
フェアウェイを捉え、グリーンを捉え、チャンスが来ればバーディーやイーグルを奪った松山の72ホールのプレーぶりは、まさに「ザ・マツヤマ」という名のショータイムだった。
「ゴルフはこうやって戦うものだ」と言っているようで、いやいや、「僕はこうやって勝ちたかったのだ」と言っているようで、その見事な勝ちっぷりは、彼が踏んできた様々なステージの集大成だったからこそダイナミックだった。彼が味わったたくさんの悲喜こもごもの集大成だったからこそ、日本のみならず、世界中のゴルファーの心に強く響いた。