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「ブレーメンでMF起用」不遇の大迫勇也が“代表初のハットトリック”で証明した自らの“戦闘スタイル”
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byJMPA
posted2021/03/31 18:10
モンゴル戦で代表初となるハットトリックを達成した大迫勇也
85分、ドリブルでゴールへ向かう伊東純也に並走する形で走り始めた大迫は、スピードに乗りながら、前方のスペースを指さす。伊東のパスに反応し、ピッチに倒れこみながら、足を投げ出したがシュートが打てなかった。悔しさのあまり、吐き出した大迫の声が無観客のスタジアムに響いた。55分に2得点目を決めたが、なかなか3点目が決められない。時計の針が進んでも、ゴールを欲する大迫の想いが伝わってきた。
「(何点入っても)前の選手なので、最後まで点を狙うのは当然。点が獲りたいんで」
モンゴルのゴールを襲い続ける姿勢や気迫について問われた大迫は、さわやかな笑顔できっぱりと言った。
そして、アディショナルタイム。スローインを受けた浅野拓磨からのパスを中央で待ち、ゴールへと流し込み3点目を決めると、破顔しながら、チームメイトと手を叩きあった。
「ひとりでは点は獲れないし、その積み重ねで獲れた3点だと思う」
所属クラブ監督は「大迫のポジションはMF」と明言
18-19シーズンからブレーメンに所属する大迫だが、そのストライカーとしての立場は微妙といってもよいだろう。昨季は最終節に2点をマークし、チームを入れ替え戦へ導き、1部残留争いに貢献し、8得点とブンデスリーガでの自身シーズン最多ゴールを決めているが、起用されるポジションの大半がMFだった。今季もそれは変わらず、フロリアン・コーフェルト監督が「大迫のポジションはMF」と明言したとも報じられている。
欧州でプレーする日本人ストライカーがMFとして扱われるのは大迫が初めてではない。岡崎慎司もドイツで、イングランドで、そしてスペインでも指揮官によっては、そういうポジションに立たされてきた。なぜそうなるのか? 答えは簡単。得点力や前線での迫力が物足りないと評価されてしまうからだ。
チームの勝利のためにと、守備にも奔走し、攻撃の起点作りに尽力できるのが日本人ストライカーの特長であり、日本ではそれが評価される。そういうFWの存在は日本代表が世界に伍していくうえで欠かせない。しかし、ときにはチームのバランスを崩してでも、自身のゴールだけを追い求めるヨーロッパのストライカーと比較すれば、どうしても指揮官の眼には「物足りない」と映るのだろう。そして、チャンスメイクや守備ができる器用さが評価されて、MF的な仕事に従事することになる。けれど、当然、本職のMFを上回るのもまた難しく、自然と先発メンバーから遠ざかってしまう。
ましてや大迫の場合、2列目など中央ではなく、シャドーやインサイドハーフなど彼がそのサッカー人生の大半を過ごしてきた場所ではないポジションで起用されている。私たち日本人からすれば、中央に立つからこそ、大迫の怖さは発揮される。それはこの韓国戦、モンゴル戦で再確認できた。