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プロ野球スカウト「好みでいったら小園(市立和歌山)よりも『新庄』だな」 センバツ現地で見たピッチャー“本当の評価”
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2021/03/27 11:03
1回戦で県岐阜商を4安打完封した市立和歌山和歌山・小園健太
立ち上がりからコンスタントに145キロ前後をマークしながら、「意味のある速球」の使い方が頼もしい。最も警戒しているはずの県岐阜商の4番・高木翔斗捕手(3年・186cm90kg・右投右打)を2球で追い込んでからも、ウエストボールを挟まず、ストライクゾーンに速球を続けて打ち取るしたたかさを発揮。
さらには、3回2死二、三塁の大ピンチでも、県岐阜商3番・山本晃楓二塁手(3年・170cm74kg・右投左打)を3球勝負で三振にきってとる。捕手のサインに迷いなくうなずいて投げ込んできた剛速球、中学時からバッテリーを組む松川虎生捕手(3年・178cm98kg・右投右打)の機知に富んだエスコートも高校生らしくなくて、なかなかにくい。
試合後半から数を増やしたスライダーは、私には「大谷翔平」のスライダーに見えた。ホームベースの手前で真横に吹っ飛んで消えていくようなスライダー。特にまだ実戦経験の浅いこの時期に、あのスライダーにスイングを止められる高校生などいないだろう。
今日はあまり使っていなかったが、チェンジアップにカットボールに、110キロ台のカーブもあって、「飛び道具」のほうもなかなかの使い手なのだが、走者を背負った「クイック」からでも145キロ前後を投げて、切り札・スライダーの時など、速球の時以上に猛烈に腕を振ってくる。本質的には立派な「剛腕」だ。
相手打者の技量に合わせてパワーチェンジしてくるあたりは、決して小ざかしい技巧ではない。この先、10年、20年と野球でメシを食っていく上で欠くべからざる「技術」であろう。
(3)「小園と遜色ない勢い」広島新庄のエース・花田侑樹
第1試合が「市立和歌山VS県岐阜商」、第2試合が「大阪桐蔭VS智弁学園」……真打ち登場みたいな2試合の後で、これも見ごたえ十分の第3試合だった。
昨秋よりすごく上手くなっていて驚いたのが、広島新庄・花田侑樹投手(3年・182cm75kg・右投左打)。
3時間ほど前に、市立和歌山の剛腕・小園健太の痛快なピッチングを見たばかりだったが、こっちだってぜんぜん遜色ないじゃないか…それぐらいの「勢い」がピッチングに満ちていた。
最近では珍しくなった大きなワインドアップ。それが、フォームに勢いをつけているが、決してバランスを難しくしていない。そのあとの全身の連動にスピードを加えている。
プロ野球スカウト「好みでいったら小園よりも『新庄』だな」
立ち上がりから140キロ前半を続けて、セットポジションからもそのスピードを保ちながら、球道に乱れが生じない。全身の躍動感、アクションのキレ味、体重移動のスピード感、リリースでの瞬発力……投げっぷりが若々しい。始動のワインドアップで一度大きく広げた全身が、フィニッシュでは小さくまとめられて、ボディーバランスも言うことなし。高校生にありがちな、コントロールから破綻するパターンは想像しにくい。見るからに、勢いのある速球が吹っ飛んできそうな、フォームで打者に威圧感を与えられる投手だ。