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プロ野球スカウト「好みでいったら小園(市立和歌山)よりも『新庄』だな」 センバツ現地で見たピッチャー“本当の評価”
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2021/03/27 11:03
1回戦で県岐阜商を4安打完封した市立和歌山和歌山・小園健太
画面に映ったピッチングシーン。走者を背負ってクイック気味に投げた速球を、右打者の外角低目に「139キロ」できめた。このボールがすばらしかった。低めなのに、“ホップ”しているように見えた強烈なバックスピン。しなやかな真タテの腕の振りにきれいに乗っかった指のかかり。まだ数は多くないが、こんな「生きたストレート」が何球か確認できた。
このサイズ、北国の高校3年生、春先……まだ出来上がっていないことばかりのはずだ。不十分な状況での投球の中に見つけた「大器」の片鱗。
「1m90近くあるのに、ショートなんかやらせたらレギュラーより上手いんですよ」
そんな話も聞こえてきて驚いた。
フォームにもはっきりしたアンバランスは見られない。ただ、前に突き出した左手のグラブの「手のひら」が外(一塁側)を向くのが勿体ない。この姿勢を作ると、左腕がさらに外に流れやすく、結果として体が開きやすい。
プロの素材だと見た。大学4年間じゃ、時間が足りない。即戦力の大卒投手がどんどん入ってくる社会人では、体を作っている間に埋もれてしまう。
プロの食事とトレーニングで、5年後、「150キロ」を出せる投手と見た。
「150キロですか…! うーん、それはちょっと盛り過ぎかもしれないけど、でもそう言われてみれば、あの運動能力と、この時期130キロ後半が投げられて、あのサイズでしょ。夏までにアベレージで140キロ前半ぐらいになれば、まあ、ない話じゃないのか。ピッチャーはねぇ、ちょっとずつ、だんだんと速くなるほうがいいんですよ。こういうピッチャーのために『育成制度』っていうのは、あるようなもんですからねぇ」
ほんとはウチで欲しかったんですけどねぇ……青森には、いまだに悔しがる監督さんもいるぐらいの計り知れない素質を秘める。時間をかけて、じっくりと確かな大輪を咲かせられる「環境」に恵まれることを願ってやまない。
(2)「大谷翔平のスライダー」小園健太(市立和歌山)
23日第1試合、市立和歌山・小園健太投手(3年・184cm89kg・右投右打)は、今大会いちばん楽しみにしていた投手。昨夏、昨秋の県大会のピッチングを見て、いちばん好きな投手でもある。
思った通りの投球だった。パワーと技術の両立。さらに、相手打者の技量を見きわめながらの「知恵」のあるピッチング。
高校生が「駆け引き」を用いると、伸びない!と眉をひそめる向きもあるが、いやいや、そんなことはない。1対1の一騎撃ちで、心のやりとりが必要ないわけがない。高校生投手だったら、そこへの興味を持つことは当然のことだ。