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「長嶋さんは、あのときがいちばん苦しかったんじゃないかな」長嶋茂雄に松井秀喜が“現役引退”の電話…その時、何を言ったか?「巨人広報が泣いた日」
posted2025/06/05 06:01

松井が現役引退時、20年間で最も印象深いシーンに挙げた「長嶋監督と2人で素振りをした時間」。その真意とは
text by

中村計Kei Nakamura
photograph by
JIJI PRESS
※「<証言で追う長嶋×松井の師弟愛> 絆は永遠に。~天才指揮官と最強打者の幸福な旅路~」(2013年5月9日発売、Number828号掲載)を特別に無料公開する。
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また長嶋は時折、試合で活躍した選手に20~30万円の入った封筒を監督賞として手渡すことがあったが、松井がもらったことは一度もないという。内田(順三)が振り返る。
「松井は活躍して当たり前だ、という態度を貫き通していましたね。長嶋さんはけっこう選手に冗談を言うんですけど、松井にはそういうことも言わなかった」
小声で松井に「凜としてろ」
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内田は何かの拍子に長嶋が松井に「凜としてろ」と小声で言ったことだけは覚えている。
「満塁で三振したりしたら、ベンチに戻ってもテレビに映るじゃないですか。そういうときでも4番は下を向くな、凜としてろ、っていう意味だったんだと思います」
だが、長嶋の松井への眼差しは遠くからでも常に熱かった。巨人の元打撃投手で、オフには松井の練習パートナーを買って出ていたこともある、北野明仁が明かす。
「長嶋さんなりに松井の調子をはかるチェックポイントがいくつかあったんだと思う。それでバッティングケージの後ろとか両サイドでじーっと見てて、練習が終わると『今日の松井いいだろ』とか『今日は打てそうにないな』とかおっしゃるのですが、試合でもだいたいその通りになるんですよ」
2人きりのときは差し向かいで熱血指導し、チームの中にいるときはそうして距離を置いて熱心に観察する。そんな態度は松井にどれだけ成長の跡が見られても、変わることはなかった。
松井を心配していた長嶋
今年(編注:2012年)、駒澤大学の後輩でもある白崎浩之をドラフト1位で獲得した中畑は、今の自分の立場と、当時の長嶋と松井の関係をこうダブらせる。