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注目度ナンバー1投手、小園健太(市立和歌山)の“想定外”「なぜ初戦でチェンジアップ&カットボールを控えた?」【センバツ】
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKYODO
posted2021/03/23 17:02
市和歌山対県岐阜商9回裏、サヨナラの生還をした平林直と抱き合って喜ぶ小園健太
「打席の途中で打者が変わるということは、相手の打者は僕のボールを見るのは初めてですし、ありがたいと思いました。甘く入らないことはもちろん考えましたし、途中からなので初球から振ってくると思いました。だから、打ち気をそらすピッチングを心がけました」
「最後は3球で決めにいこうと思いました」
そして、6度もあった得点圏のピンチは「三振を狙いにいった」とギアチェンジも見事だった。
特に圧巻だったのは3回表の1死二、三塁のピンチだ。内野手は前進守備陣形をとっていただけに、ヒットゾーンは広くなっていた。バットに当てられるだけでも怖さがある中で、2者連続三振。圧巻というほかなかった。
小園がこのシーンを振り返る。
「内野ゴロでも、ランナーがスタートを切ってゴロ・ゴーをしてきたら1点が入る場面だったので、ここは三振がベストだと思った。自分の中ではギアを一つ上げて三振を狙いにいきました。最後は3球で決めにいこうと思いました。ここで三振を取れて手応えを感じました」
この日、最大の山場と言ってもいい序盤の大ピンチを連続三振で切って取れるところは、「勝てる投手」の素養ともいえる。緊張からいつもほど制球が定まっていなかった。それは6四球が証明しているが、その中でも、試合の勝負所を見極め、ギアを上げて相手につけいるスキを与えなかった。
なぜチェンジアップ、カットボールを使わなくなったか?
また、小園は今日の試合の中でもピッチングスタイルを変えている。
最速152キロのストレートがある小園だが、そのほかに、2つのツーシームやチェンジアップ、カットボール、スプリット、スライダーを持っている。いわば近代型のピッチャーで、全球種をまばらに投げることで、打者を惑わす術を持っている。
高校生なので、プロ野球やメジャーリーグなどのようにテクノロジーを駆使したピッチデザインまではできないが、彼の中で打者をどう打ち取っていくべきかの青写真を持っている。
しかし、今日はその想定が少し違った。昨秋はツーシームやチェンジアップを多めに使っていたが、それをしなかったのだ。
小園は話す。
「試合前はチェンジアップやカットボールなど細かい変化球を使って打たせていこうと思っていたんですけど、相当に研究されていて、チェンジアップを振ってくれなくて、小さい変化球も狙われていた。途中から割り切って、大きいスライダーを主体にして、ストレートとスライダーで組み立てました。四球が多かったのは反省点ですが、要所でしっかり0点に締めれたのは大きかった」
この日の最速は147キロ。自身のキャリア最高の数字ではなかったが、それでも今大会注目度ナンバーワンに違わぬピッチングで完封勝利を収めた。
最後まで「不敵」だった。