野ボール横丁BACK NUMBER
【センバツ】え? 石田ではなく、石川?…「東海大」対決で「相模」監督が思わぬ“奇策”「まさか右投手とは…」
posted2021/03/21 06:02
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
KYODO
石田ではなく、石川。
名は似ているものの、出てきたのは、まったく「非なる」投手だった。
取材時、マスクをしていても、声のトーンとセリフから驚きは十分に伝わってきた。東海大甲府の監督、村中秀人が振り返る。
「まさか右ピッチャーが出てくるとは思わなかったので……。ほとんどデータがなかったので、試合になって、どうすればいいのかなと考えていた」
相手の東海大相模の先発は、ベンチ入りメンバーの中ではいちばん最後、背番号「18」を背負った石川永稀だった。昨秋はベンチにさえ入っていなかった投手だ。
その石川はイタズラっぽい笑みを浮かべて言った。
「ニュースとかで、相手の学校が、石田、石田って、石田対策(ばかり)をしていると聞いていたので、自分がいけば驚くだろうなと思っていました」
「負けているチームが他のピッチャーでくるとは…」
東海大相模のエース、大型左腕の石田隼都はプロ注目の投手だ。ストレート、スライダーともに一級品で、すでに大投手の風格すら漂っている。両チームは昨年秋、関東大会でも対戦し、最終的には2−1で東海大甲府がサヨナラ勝ちした。とはいえ、8回まで石田に5安打無失点に抑え込まれながら、土俵際でうっちゃったような試合だった。
それだけに、対戦が決まってからというもの、東海大甲府は、より石田対策に力を注いできた。
加えて言えば、何としてでも勝ちたいのは一度、負けている東海大相模の方だ。その東海大相模が石田ほどの投手を温存してくるとは思えなかった。村中は取材中、何度も驚きの表情を浮かべた。
「甲子園の初戦で、しかも一度、うちに負けているチームが他のピッチャーでくるとは。予想はできなかったです」
石川は、140キロ前後のストレートにスプリットを効果的に交え、8回1失点と好投。打線の中心でありながら、ノーヒットに終わった東海大甲府の3番・木下凌佑はこう認める。
「動揺した部分がありました」
「裏をかいたのでは?」東海大相模監督の答えは…
9回から、対策を十分に練ってきたはずの石田が登板する。1−1のまま試合は延長戦に入ったが、東海大甲府打線は、石田に3回で7つもの三振を奪われ、最後は3−1で振り切られた。村中はがっくりうなだれた。