ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
“飛ばない”方へ用具改正で揺れるゴルフ界 「トッププロ」と「一般アマ」の分断はメーカー泣かせ?
posted2021/02/25 06:00
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Getty Images
飛ぶボール、飛ばないボール。
プロ野球ではこれまで何度か議論の対象になってきたトピックだが、似たような話題がいまゴルフの世界でも注目されている。しかもこちらはボールだけではなく、球を打つクラブのつくりにも手が加わるというから、なんだかややこしい。
ゴルフは投手と打者が対峙するわけではないから、道具がどうあれ基本的には特定の選手が有利になったり、不利益を特別被ったりするわけではない。ざっくりと言えば、ゴルフのルールを司る団体がいま、ゴルファーおよび業界全体に「飛ばないボール、飛ばないクラブ」を使うよう、要請をしているところなのである。
なぜ今、飛ばない道具がヨシとされるのか。
実はこの議論が本格化されたのは21世紀に入った頃で、かねてルール統括団体はゴルファーの、とりわけ世界のトップを争うような選手たちの飛距離の伸びを“問題視”してきた。
難度を保つために距離を伸ばす
選手個々のスイングや肉体の改良に加え、技術革新による用具の進化で、まさに飛躍的にボールは遠くに飛ぶようになった。だがそれに伴い、ゴルフ場側が難度をキープしようとすると、コース全体の距離を伸ばすことが求められる。例えばマスターズの会場、オーガスタナショナルGCの18ホールの総距離は、大会が始まって間もない1940年代に6800ヤードだったのが、2000年に6985ヤードに伸び、現在は7475ヤードに設定されている。ゴルフ場の拡大は財政的にも環境的にも負担コストが大きく“サステナブル”でないというわけだ。
あるいは、とにかく飛距離でアドバンテージを取ってボールをホールに近づけ、好スコアにつなげる戦略を重視するあまり、繊細な技術を求めるゴルフ本来の面白み、チャレンジを損なうという見方もある。乱暴に表現すると、「ゴルフはドラコン大会とは違う」といった類の物言いである(ドラコンだって、真っすぐ飛ばす高度な技術が必要なのだが)。
その理屈を整えるべく、ゴルフルールの権威である英国本拠のR & A、全米ゴルフ協会(USGA)は過去の文献資料などをもとに「ディスタンス・インサイト・レポート」なる報告書を2020年に発表した。これによると、1900年前後の男性エリートゴルファーのドライバーの平均飛距離は160から200ヤードだったのが、1930年前後には220ヤードから260ヤードに、1980年あたりには240から280ヤードに伸びたという。
各国でプロツアーが成熟期に入ったそれ以降もグラフは右肩上がり。2020年のPGAツアーの平均飛距離は296.4ヤード、ちなみに若手の多い下部コーンフェリーツアーではそれを上回る303.0ヤードを記録した。