ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
“飛ばない”方へ用具改正で揺れるゴルフ界 「トッププロ」と「一般アマ」の分断はメーカー泣かせ?
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byGetty Images
posted2021/02/25 06:00
R&A、全米ゴルフ協会の「提言」に対して、辛辣なコメントを寄せたロリー・マキロイ
飛距離アップに歯止めをかける「提言」
この研究結果をもとに両団体は今年2月、ゴルファーの飛距離アップに歯止めを利かせようと、ボールやクラブに規制をかける「提言」を発表した。今のところ「決定」ではなく、あくまで提言。「我々はこうしたいと思いますが、一応皆さんの意見も聞きます」という段階ではあるが、いったどんなものか。
提案されたのは3つ。
(1)クラブの長さは46インチまで(パターを除く)
(2)ボールの標準総合距離で最適な打ち出し条件の使用
(3)ペンデュラムテストプロトコルでのテスト許容誤差を18μsから6μsに減じる
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……ゴルファーであっても、大多数の方にとっては特に下の2項目がチンプンカンプンではなかろうか。とりあえず順を追って説明したい。
(1)ゴルフルールではパター以外のクラブ(普通はドライバー)の長さは48インチまで、と決められている。物理的には同じ出力で振った場合、長いクラブの方が球に伝わるパワーが大きくなるため、シャフトの長さを46インチに規制する。ただし、この提案に関して両団体は「対象はプロやエリートアマチュア。ツアーや大会でローカルルール(特別ルール)を定めるべき」とした。
(2)はボールの製造段階で、メーカーに要請したもの。ゴルフボールは大きさ(42.67mm以上)と重さ(45.93g以下)が規定されているだけでなく、マシンによる一定条件下でのテストで「飛距離の上限」が決められている。今回はこのテスト条件をひとつ見直し、球の打ち出し角度(インパクト部分で水平線と飛球線がつくる角度)の幅を広げた。これまで「10度」だけでテストしていたのを、「7.5度から15度」で計測しても飛距離の限界を守ってください、というもの。
(3)も基本的にはメーカーへの要請で、こちらはクラブの規制になる。クラブのフェース面がモノをどれだけ弾くかという規定値を厳しくした。これを調べるペンデュラム式テスト、という検査で値をオーバーしたクラブは「飛びすぎ」のため使えない(ただし、製造段階ではOKでもクラブは経年劣化で基準を超えることがある)。
(2)と(3)は見分けがつくものではない。ただプロのみならず、多くのゴルファーにとっての問題は、いま持っているボールやクラブが今後も競技等で使えるのか?ということ。シャフト長を制限した(1)は分かりやすそうだが、製造段階での基準が変わる下の2つについてはどうか。
市場にあるボールが使えなくなる?
あるメーカー担当者に所見を聞いたところ、(2)についてはいま市場にある一部のボールが「使えなくなる可能性もある」という。「特に“硬い”と言われる球については、テストでの打ち出し角が低いと、初速が加わって制限距離を超えるかもしれない」という。
一方(3)は「ツアー選手をサポートするような大手メーカーの今あるクラブは、あまり影響を受けないのでは」という見方。「2008年に高反発クラブの規制が行われてから、大手メーカーは試合会場でも検査ができるペンデュラム式のテスト機器ではなく、キャノンテストという巨大な計測機を用いた製品作りにシフトしている」とか。いずれにしても、メーカーは今後、いっそうの負担と研鑽を強いられることになる。