ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
“飛ばない”方へ用具改正で揺れるゴルフ界 「トッププロ」と「一般アマ」の分断はメーカー泣かせ?
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byGetty Images
posted2021/02/25 06:00
R&A、全米ゴルフ協会の「提言」に対して、辛辣なコメントを寄せたロリー・マキロイ
トッププロたちの反応は?
今回の提言に大きく影響を与えたのが、昨今のトッププロ、実力者たちがこぞって飛距離を伸ばし続けている潮流だ。彼らの反応は必ずしも好意的でない。
世界ランキング1位のダスティン・ジョンソンは「飛距離の制限がいま必要だとは思わない。ここ15年を見る限り、(平均的な)スコアはあまり変わらない。ゴルフが簡単になったとは感じない。同じゴルフ場でもグリーンが硬くて速くなって、ラフも少し長いだけでスコアは劇的に変わるもの」と疑問を投げかけた。
米国ではショートヒッターと言えるウェブ・シンプソンも「用具に制限を加えるのではなく、コースを難しくするべき」とゴルフ場の敷地面積は広げず、各ホールの形状やコンディションに変化を加えるべきと主張。ジャスティン・トーマスは「メーカーはボールや用具の開発にすごい費用をかけてきた。USGAとR&Aは身勝手」と苦言を呈した。
「ガッカリはしない。ルールに従う」と理解を示したブライソン・デシャンボーのような選手は目下少数派と言えそうで、それも「(道具が同じなら)僕のボールスピードをツアーのほかの選手が得るのは難しい」と昨年、肉体改造で圧倒的な飛距離を手にした自負も影響していそうだ。
マキロイ「時間と金の無駄」
とりわけ反発の声を大にしたのがロリー・マキロイだった。
「ディスタンス・インサイト・レポート」そのものに「時間と金の無駄」と批判を浴びせ、自分たちの外の世界への影響を懸念した。「権威は狭い視界で物事を見ている。彼らが変えようとしているのは、(ゴルフ界)全体の0.1%についてだけ。99.9%にとってゴルフは楽しむためのエンターテインメントだ。彼らが使うボールやクラブについてまで議論する必要はない」と、大局的な見方で語ったのである。
マキロイは反論の中で提言内のシャフトの長さの規制(1)のように、プロとエリートアマチュアの大会には特定のローカルルール、つまり一般的な“エンジョイゴルファー“と違う規則を設けることに賛同した。ちなみにエリートアマチュアの大会というのは、日本ゴルフ協会(JGA)の担当者によると、「主に各国のNF(ゴルフ協会)や傘下の連盟等が主催するような競技」であり、いわゆる各ゴルフ場のクラブチャンピオンなどを争う場では、それぞれの取り決めがあっていいとの解釈。
ただし今後、そういったプロを含めたトップレベルと、一般ゴルファーの間を“分断”するような「ローカルルール」の設置が推進されると、業界全体、とりわけメーカーのマーケティングへの影響も大きくなりそうである。