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アシックスが支える“新しい田村優” 華麗なパスと正確無比なキックに加わった32歳司令塔の武器とは?
 

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谷川良介

谷川良介Ryosuke Tanikawa

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2021/02/25 15:00

アシックスが支える“新しい田村優” 華麗なパスと正確無比なキックに加わった32歳司令塔の武器とは?<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

キヤノンイーグルスの新キャプテンとしてチームを牽引する田村優

「自分たちで首を絞めている」

 しかし、2月21日のNTTドコモレッドハリケーンズとの開幕戦では、イーグルスの荒削りな部分が露呈した。

「練習と同じことが試合に出てしまった」とは田村の弁だ。

 序盤から敵陣でプレーするものの、肝心な勝負所でミスやペナルティを乱発し、リードする試合展開の中でも主導権を握りきれない時間が続く。世界屈指のSHで現役オールブラックスのTJ・ペレナラを中心に追いすがるNTTドコモのアタックを耐え凌げず、最後はホーンが鳴った後に逆転PGを決められた。24対26――今のキヤノンを象徴するかのような劇的な”サヨナラ負け”だった。

 スタンドから終始、大きな声で指示を出していた沢木監督は「自分たちがやろうとしているラグビーとはほど遠い。自分たちで首を絞めている。まだまだ我慢強さがない。(今は)こんなものでしょう。まずは現状を受け入れないと成長できないと思う」と厳しく振り返り、田村も同様に今後の改善を誓った。

主将・田村が見せた「独走」

 確かにキャプテンとしての初陣は飾れなかった。だが、「大好きなラグビーをできて嬉しかった」と口にしたように、田村は約1年ぶりとなる公式戦のピッチを伸び伸びと楽しんでいるようにも見えた。

 トライを取りきれない時間でも積極的に味方とコミュニケーションを図り、チームを鼓舞。攻撃では南アフリカ代表CTBジェシー・クリエルらを巧みに操縦し、一瞬のタメやFWを織り交ぜることでテンポを変え続け、相手に最後まで的を絞らせなかった。事実、この日キヤノンが上げた3つのトライには、そのすべてに絡んだ田村の工夫がいくつも隠されていた。

 印象的だったのは、“使う”動きだけでなく、自らもゴール前へ侵入する“怖さ”を見せたこと。パスダミーや軽快なステップで相手を1人、2人とかわして味方へオフロードパス。最大の見せ場は後半36分のトライに結びついた「独走」だ。これまでのパスワークがまるで伏線かのように「空いているのが見えた」と軽快なロングランをみせ、新加入FL安井龍太の逆転トライをアシスト。敗れはしたが、まさにMOM級の活躍だった。

「まだまだこれから」と発展途上のチームに厳しい言葉をかけ続けるが、最後はファンに手を振って笑顔でスタジアムを後にした田村。まさに“新しい田村優”を予感させる開幕戦だった。

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