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なおみテニスの真髄…元世界1位相手に“崖っ縁から15分での大逆転” 直感型の大坂にデータ処理能力も宿った理由
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2021/02/15 17:02
マッチポイントを握られながらも逆転勝ち。大坂なおみは日ごとに強さを増す印象だ
ムグルサは、悔やむとしたらマッチポイントの2つ目だと言い、「サービング・フォー・ザ・マッチのサーブがもっと良ければラリーの主導権を先にとれた」とも言った。しかし、マッチポイント以降アンフォーストエラーを1つもおかさなかった大坂の攻撃に対し、焦燥の中でムグルサはどう対処できただろう。
なぜジェットコースターのような展開に?
大坂の力強いサービスキープ、直後のブレークと、理想的なかたちで始まったこの試合、いったい大坂に何が起こって、このジェットコースターのような終盤の展開になったのか。
「試合の前にウィム(・フィセッテ/コーチ)からすごくたくさんの情報をもらったけど、試合の中ではうまくいってなかった。私はストレスがかかるとあまりいろいろ考えられなくなってしまう。最後のほう、5-5のあたりからやっとウィムが言ってたことを冷静に思い返せるようになった」
第5ゲームをブレークされて“直感プレー”にチェンジし、追いついて競り始めると再び事前の情報や作戦が生きてきた――。大坂は以前の会見でこうも話している。
「いくらたくさんの情報があったとしても、最後は自分自身。お決まりのやり方に従うことが全てじゃない。試合の中で自分なりに相手を分析して、そこにウィムが言っていたことも考え合わせている」
<直感>をひらめきや勘のようなものと考えるのは、間違っているようだ。そこには確かな経験や知識、分析力が宿っている。
データマンなフィセッテコーチとの絶妙な相性
2019年の暮れ、フィセッテ・コーチの就任が発表されたとき、“データマン”であるフィセッテ・コーチと直感型の大坂の相性は、どちらかといえばあまり合わないのではないかとも思われた。しかし今では2つの強みのバランスが絶妙にマッチしている。フィセッテは満足そうに言う。
「なおみはどんどんデータに熱心になっているよ。今じゃ試合のあとは自分から、ウィナーやアンフォーストエラー、セカンドサーブがどうだったかってスタッツを聞いてくるしね」
大坂の頭の中での情報処理能力が高まり、データへの興味も増しているおかげで、昨年の全米オープンでは、「なおみは勝負どころでの直感的なプレーが優れた選手だ。試合前のゲームプランはなるべくシンプルに、ベーシックなものにとどめて伝えている」と話していたフィセッテも、その手腕をより発揮しやすくなったのではないか。