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「ネガティブな感情は自分に跳ね返る」川崎の名将・鬼木達が大切にする「本気の言葉」とは
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byGetty Images
posted2020/10/29 11:05
風間監督(当時=左)をヘッドコーチとして支え、2017年からその座を引き継いだ鬼木監督(撮影 2016年)
チームのために闘うこと、走ることを求めた
真正面から向き合い、子供たちのことを思い、うまくなってもらうために愛情を持って全力でぶつかる。選手でやってきたことを、指導者になっても変わらず続けていけばいい。自分なりに何となく方向性が見えた気がした。
2008年からは2年間、U-18コーチの任に当たった。
「アカデミーの難しさは学校生活が一緒じゃないこと。だから一体感をつくるのが簡単じゃない。それでも仲間意識がないわけじゃないので、コーチの立場から組織としてぎゅっとなれるものをつくりたいとは思っていました」
技術の習得はもちろんだが、チームのために闘うこと、走ることを求めた。勝利に向かってみんなが1つになる。そこから得られる喜びを体感させた。厳しい練習で知られた母校の市立船橋高や“常勝”鹿島アントラーズで学んだエッセンスも落とし込み、2009年7月のクラブユース選手権、12月のJユースカップでも決勝トーナメントに進出するなどチームは地力をつけていく。
「目の前で起こっていることをやり過ごさない」
指導者としての手腕も評価され、2010年からはいよいよトップチームのコーチに就任する。ここから7年間、高畠勉、相馬直樹、そして風間八宏のもとで監督を支える立場となる。
引退から3年。コーチとなってトップチームに帰ってきた鬼木は、指導者としても頼られる存在となっていく。鬼木からキャプテンを引き継ぎ、その後もリーダー的な役割を担ってきた伊藤宏樹はこう振り返る。
「オニさんがコーチ時代、2人でよく話をしました。戦術的な確認ばかりじゃなく、心の持ち方とかそういうことも。鬼さんは選手みんなのことを本当によく見ていましたよ。試合に絡めていなくてモチベーションに苦しんでいる選手に対して本気でぶつかっていましたし、目の前で起こっていることをやり過ごさないんですよね。現役のときと一緒なんです」
鬼木自身、監督の仕事をサポートするとともに、選手の心理的なケアも自分の役目だと理解していた。目配りは常に心掛けていたことだ。
「様子がちょっとおかしいなと思って声を掛けてみると、悩んでいることを話してくれたり……。やっぱり監督には言えないことも、コーチに対しては言えるってこともありますからね。自分としては、腹を割って話をして監督の目指すほうに彼らの気持ちを誘導していく。ごまかさずに向き合えば、分かりあえるっていうスタンスでずっとやっていました」