炎の一筆入魂BACK NUMBER
カープらしい「機動力野球」はどこへ……? 伝統を継ぐため、今“しなければいけないこと”
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2020/09/15 15:00
8月7日の阪神戦で三塁打を放った羽月隆太郎。50メートル5秒7の若き俊足はチームに機動力を取り戻せるか。
広島黄金期を知るOBは、「機動力は、ひとつの攻撃で各塁から1つではなく2つ、3つ先の塁を奪うことである」と伝統の機動力野球を表現した。次の塁を奪う走塁や攻撃は広島の最大の武器だった。
機動力を軸に、粘って四球を選ぶ。一塁へ全力疾走する。3ストライク目に捕手が少しでも弾こうものなら、スピードをもって一塁へ走りだすなど、当たり前のことを当たり前にする浸透度の高さが、相手を消耗させていたように感じる。強者の戦い方ではなく、たとえ弱者であっても強者に勝てる戦い。今季も鈴木誠也や菊池涼介ら主力が一塁へ全力疾走する伝統は残っている。何とかしようとする姿が見えるだけに、もどかしい。
「攻撃力=打力」になりつつある状況から脱しなければいけない
「打線は水物」と言われるように、毎試合打ち勝つことができるほどプロの世界は甘くない。野球が変わりつつあると言われていても、やはり計算が立つ守備力の重要性は変わらない。今季、セ・リーグ順位(1位から巨人、阪神、DeNA、中日、広島、ヤクルト)が、チーム防御率の順位(1位から巨人、阪神、中日、DeNA、広島、ヤクルト)と重なることからもそれは明らかだ。
3連覇した反動はあるもの。ただ、防御率の悪化や得点力の低下よりも、機動力野球の伝統が薄れていることが懸念される。シーズンは折り返し、終盤戦となる。まずは「攻撃力=打力」になりつつある状況から脱しなければいけない。選手だけの問題ではない。伝統とはチームが変わっても、受け継がれていくものだろう。
9月2日の中日戦で5打点の活躍でチームの連敗を止めた會澤は言った。
「みんなが同じ方向を向いて戦っていくしかない。1つでも上に上がっていくためにも、みんなの力で戦っていきたい」
出場選手だけでなく、ベンチにいる控え選手、そしてチームが一体となって生み出すエネルギーが、広島の強さだったはずだ。厳しい状況でも最後までファイティングポーズをとり続ける広島が、打力プラスアルファのコンビネーションで相手を倒す試合を1つでも多く見たい。それがチームの形となり、伝統となっていく。