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メッシのバルサ急転残留=“仮面夫婦”継続 「走らない天才」脱却はできるのか
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2020/09/09 08:00
メッシはバルセロナにとって永遠の宝である。だからこそ、今回の件では“キレイに”別れてほしかった。そう思う人は世界中に多いはず。
アンス、プッチらに現代風アレンジを
“粛清執行人”として雇われたロナルド・クーマン新監督なら、あるいはメッシをベンチに置くことも厭わないのかもしれない。しかし、仮にそれで結果が出なければ、それこそ批判の集中砲火を浴びるだろう。はたして彼に、そこまでの覚悟があるかどうか。
「まず、これまでの考え方を変える必要がある。フットボールは急激に変化し、バルサのDNAはすでに時代遅れになっている。今のフットボールはよりフィジカルで、よりパワフルで、よりスピーディー。テクニックは二の次になった」
ビダルの指摘は的を射ている。ただし、全肯定はしない。バルサが脈々と受け継いできたDNAは、アイデンティティーは、そう簡単に放棄していいものではないはずだ。仮にブルドーザーのようなフットボールでヨーロッパを制しても、それは決してバルサの勝利ではない。
アンス・ファティ、フレンキー・デヨング、リキ・プッチといった若き逸材たちを中心に、あくまでも美しいフットボールを追求しながら、そこに現代風のアレンジを施していくことが、やはり彼らの進むべき道ではないか。
ただし「走らない」、「守備をしない」特別待遇は、もはやメッシであっても許されない時代であることだけは間違いない。
リーダーシップも見せてほしい
もしかするとメッシの残留は、1つのサイクルの終わりを無理やり先延ばしにし、改革のスピードを鈍らせる結果につながるかもしれない。
そうならないためには、メッシ自身が変わることだ。
それは、試合の大半を"散歩"しながら過ごすプレースタイルだけではない。むしろそれ以上に彼に求められているのは、強いリーダーとしての振る舞いだろう。
CLのバイエルン戦、1-4で折り返したハーフタイムのロッカールームに、放心状態で腰掛けるキャプテンの姿があった。
逆転の可能性を信じて仲間を鼓舞するわけでもなく、メッシはただ1人、虚空に目を泳がせていた。そして、燃え盛る我が家をただ茫然と見つめるしかなかったあの惨敗劇から、わずか10日後の退団表明。チームメイトからの信頼が揺らいでいても不思議ではない。