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メッシのバルサ急転残留=“仮面夫婦”継続 「走らない天才」脱却はできるのか
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2020/09/09 08:00
メッシはバルセロナにとって永遠の宝である。だからこそ、今回の件では“キレイに”別れてほしかった。そう思う人は世界中に多いはず。
両者とも「読み違い」があったのでは
エルネスト・バルベルデ監督の突然の解任、ネイマールの復帰ではなくアントワン・グリーズマンの獲得を優先させた補強(と数々の意図不明の補強)、コンサルティング会社を使ってのSNS批判工作疑惑、そして、親友ルイス・スアレスへの戦力外通告。
サポーターの批判の矛先は、メッシの希望と信頼をことごとく踏みにじってきたジョゼップ・マリア・バルトメウ会長に向けられていた。
にもかかわらず、彼らは元の鞘に収まった。
現地時間、9月4日の残留表明。世界を激震させた一連の騒動は、2021年6月までの契約期間をメッシが全うする形で決着を見たのだ。
あくまでも想像だが、そこには両者の「読み違い」もあっただろう。
メッシ・サイドにしてみれば、まさかバルトメウ会長がここまで頑なに契約違約金の満額払いにこだわるとは思っていなかったはずだ。さらに、恩師ジョゼップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスター・シティなど、当初は獲得に興味を示していた金満クラブが、コロナ禍による経済的ダメージもあって、次第に腰が引けたことも想定外だったに違いない。
一方のバルトメウ会長にしても、メッシ・サイドがこうもあっさり白旗をあげるとは考えていなかったのだろう。バルサ首脳陣にしてみれば、サポーター向けのポーズとして、「放出を阻止すべく粘りに粘ったが、メッシの強い意志に屈した」というシナリオを作りたかっただけなのだ。理想は交渉をある程度、引き延ばしたうえでの売却。要するに、彼らはタイミングを見誤ったわけだ。
メッシとバルトメウ、どっちが得したのか
では、今回の残留という決着で、メッシとバルトメウ、どちらが得をしたのか。
ひとつ言えるのは、そもそもバルトメウ会長に失うものなど何もなかったということだ。「メッシを追い出した男」としてクラブ史に名を残さずに済んだことが唯一の救いで、もはやサポーターからの信用は完全に失墜してしまっている。
メッシが出て行こうが行くまいが、来年3月に予定されている会長選挙で再選となる可能性はほぼ皆無だろう。むしろ1年後、この世界最強プレーヤーにタダで出て行かれる道筋をつけたに過ぎない。