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その日、内田は7回「鹿島」と言った。
最も印象に残ったCLの試合の後で。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2020/08/27 18:00
バレンシアを破り、長友佑都がいたインテルを破ってCLベスト4に躍進した時も、内田篤人の心には「鹿島」があった。
ラウールは内田を信頼していた。
内田がシャルケに移籍した2010年からの10年間で、ドイツの国営放送ARDが選ぶ年間最優秀ゴールを複数回受賞したのはラウールただ1人。それ以前に、彼がレアル・マドリー時代に残した功績はここで語るまでもない。
2011年11月24日にシャルケにとって最も大切なダービーをひかえた練習を終えたあとにも、ラウールが内田と肩を組んで熱心にアドバイスを送っていたのを覚えている。
「『ウッシーはたまにディフェンスのときに裏をとられちゃうから、常にボールとマークする相手を見ていたほうがいいよ』と言っていた。『たまに集中力がないときがあるから、それがなくなればもっと良くなるんじゃないかな』みたいなことも言ってたなぁ(笑)。いつもはクロスとかパス出すタイミングとかだけど、ディフェンスのことに関しても、たまに指摘してくれるかな」
期待しない者にアドバイスするほどレジェンドは暇ではない。信頼関係があるからこその苦言だった。
鹿島で「言われてきましたから」。
話を戻すと、3-1で快勝した件のCLハポエル戦の試合後。脱力気味に、少しけだるそうにも見える様子で内田は記者からの質問に答えていた。
しかし、前半17分の戦術的なファールのシーン直後の、スタンドのリアクションについてたずねると、風向きが変わった。
――あの場面、スタンドから拍手が起きていましたよ。気づきましたか?
「あぁ、そうなんですか! それがわかるというのは、『みんな、サッカーを知っているな』と。汚いプレーと言われたらアレだけど、ああいうところで自分が上がって、ボールを取られて、カウンターを食らうのはツライので。日本ではなかなか気づかれない部分で。そういうところ、目が肥えている……。良い環境でやれていますねぇ」
――カウンターの芽を摘んでおこうと?
「カウンターがというよりは、自分たちの失い方が悪いと、やっぱりめんどくさい。もどらないといけないので。イエローをもららない程度に。あまり公共の場では言えないですけど(笑)」
――あれは「戦術的ファール」と言われ、ドイツでも高く評価されるわけですから、それができたというのは……
「まぁ、そうですけど、それは日本にいたときにも言われてきましたから」
CLという世界最高峰の戦いで、たった1つのファールの価値をわかってくれるシャルケファンに感動を覚えた。ドイツでやる喜びを見出したと言い換えることもできる。
では、なぜ、そんなプレーができるのかと言えば、Jリーグの名門鹿島アントラーズで鍛えられたからと胸を張った。