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バイエルンを変えたフリック監督。
悠々と国内2冠、CL優勝も現実的だ。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2020/08/07 20:00
リーグ、国内カップ戦で優勝して2冠。フリックのバイエルンはCLでも優勝候補の限りなく筆頭に近い位置にいる。
フリックの退任後、ドイツ代表は失速。
それまでのレーブは戦術の練習やフィットネスレベルを上げることを好み、セットプレーの練習時間を削る傾向があり、それが議論を引き起こしてきた。
その方針を“上手に”軌道修正させたのが、フリックだった。
ブラジルW杯の気候条件(国土が南北に長いために気温の差が大きい)や移動距離から“良いサッカー”だけで勝ち抜ける可能性は低いという分析に加えて、2010年の南アフリカW杯でも、相手のCKから決勝点を奪われて敗退していた。なのでセットプレーの精度こそがドイツの命運を左右するとフリックは考えていた。
だが、レーブの主義はそう簡単に変わるものではない。
そこでフリックは一計を案じ、セットプレーからゴールが決まるかどうかに夕食を賭けようとレーブに提案した。負けず嫌いの人間が、この種の誘いに乗ってこないわけがない。そうやって、まんまとレーブにセットプレーの重要性を認めさせたのだ。そして、ブラジルW杯本番でセットプレーから6ゴールを奪う形で結果を出した。
セットプレー以外にも、ドイツ代表の戦術にフリックが果たしていた貢献は大きい。ドイツサッカー協会の雑誌で、代表チームのコンセプトについてこう解説している。
・相手の守備が組織的なときの攻撃
・相手の守備があまり組織的でないときの攻撃
・プレーの哲学
特にこの3点について明確に語っており、ドイツ代表への影響力が感じられた。そしてフリックの退任後、ドイツ代表が失速したのは記憶に新しい。
2018年のロシアW杯でドイツ史上初のグループリーグ敗退を経験した後に、レーブ監督はその原因についてこう断言している。
「完璧なポゼッションを目指したことが失敗だった」
現実主義者であると同時に、戦術面での進化にも貢献していたフリックがいたら……と多くの人が感じたことだろう。
「どんなことも可能になる。三冠ですら」
しかし、フリックがドイツ代表に戻ることはしばらくなさそうだ。
当初はバイエルンとの契約はシーズン終了時までの暫定的なものだったが、今年の4月に正式な監督としての契約を結びなおし、2023年まで指揮を執ることになった。
ブンデスリーガでは30代の若い監督が数多く活躍するようになっており、55歳の新米監督は異端の存在でもある。しかしそれを差し引いても、フリックは注目と期待を集めるだけの結果を出してきた監督なのである。
最後に、バイエルンで三冠を達成したハインケスの手記からもう1つ紹介しよう。
「私は昨年の12月の初めての時点で、フリックの任期が長いものになることと、チームの成長を予想していただろう? このシーズン、どんなことも可能になると思うよ。三冠ですら、ね」