One story of the fieldBACK NUMBER
「人気のセ、実力のパ」からの挑戦。
プロ野球ビジネスが迎える新時代。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byPLM
posted2020/07/01 11:45
右肩上がりで動員数を増やしているパ・リーグ。そこにはどんな施策があったのだろうか。
リーグ、業界全体で拡大していくべき。
「ビジネスとして不確実なんです。勝ち負けによって観客動員が左右されるとすれば、優勝した1つの球団以外はみんな業績が下がることになります。それでは右肩上がりの成長はできません。結局、勝っても負けても、寝ても覚めてもイーグルスと思ってもらえるかどうか。そういうファンをいかにつくるかなんです」
プロ野球の世界では毎年のように勝者と敗者が入れ替わり、選手の争奪戦が繰り広げられる。一方で、当然ながらリーグ自体は相手球団がなければ成り立たず、お互いの存在がお互いを支えている部分が大きい。やがて根岸は楽天というひとつの球団のことだけではなく、リーグ全体、業界全体で顧客を獲得、拡大していくべきではないだろうかと考えるようになっていった。
「スポーツは相手がいることが前提です。リーグ全体で見れば、もし1つの球団だけがずっと勝っていたとすると、その状態が継続すればするほど全体としては長続きしなくなる。これからは全体に最適を与える仕組みが必要ではないかと思っていたんです」
当時、根岸は時間を見つけては自費でアメリカへ渡っていた。メジャーリーグを視察するためだった。そこで知ったのは、MLBが30球団の放映権を一括管理して、全体として利益をあげる仕組みだった。それぞれのスタジアムは必ずしも連日満員ではないのだが、ビジネスとしては大成功している。
それに対して日本は依然として各球団がそれぞれ放映権を管理していた。
6球団が重なる部分だけを推進する。
根岸は2013年、楽天球団内での人事異動があったことを機に、PLMへの入社を決めた。
PLMはパ・リーグ6球団の共同出資によって2007年に設立され、最初は各球団からの出向者によってスタートした企業だ。
リーグ全体の収益性を上げるという同社の理念は、根岸が抱えていた思いと重なるところがあった。楽天に在籍していた当時からPLMの事業に参画していた根岸にとっては、ある意味、自然な決断だったという。
設立当初のPLMは、球団ホームページなどを一括管理することなどでの経費削減を柱にしていたが、2012年にネット配信コンテンツ「パ・リーグTV」を開始した。
根岸は入社してから、このネット配信の拡充や6球団合同イベントなどを手がけて、パ・リーグ自体の顧客を増やしていった。
その過程では“寄り合い集団”ならではの難しさも味わった。親会社の業態も、利害関係も異なる6球団共同出資という性質上、企画立案しても、結局はその壁に阻まれて推進できないプロジェクトが多かった。
「例えば、某食品会社さんとスポンサーシップを結ぼうとしても、それはロッテさんとしてはあり得ないわけです。他方、ソフトバンクと楽天では何かをやろうとすると必ず競合関係にありますから」
その中で根岸が見出したのは、それぞれの球団が描く6つの円が重なる部分だけを推進し、それ以外のことは「やらない」と決めることだったという。
年間売り上げは、設立当初の30倍に。
「6球団だからできること、1球団だけではできないこと。それを考えていく中で、まず『これはやらない』ということを決めていくんです。そうすると6球団の思惑が合致する部分が見えてきます。色に例えれば、各球団の色はそれぞれ全く違うわけですから、その中でなるべく全体に近い色、例えば青系を目指そうと決めるわけです。そして結果的にそれが黄色になったとしても、それはいいんです。まとまるためにまとまるのではなく、あくまで各球団の収益性を今よりも上げるために、これならまとまれそうだという部分だけをやればいい。そう考えてからやるべきことが見えてきました」
2017年には代表取締役社長となり、2018年には楽天、ソフトバンクに加えて、イギリス発のスポーツ専門ネット配信サービス「DAZN」とも配信契約をまとめた。それによって年間売り上げは50億円に達し、設立当初の30倍にもなった。
それと並行するように、パ・リーグの観客動員数はこの15年間でおよそ1.5倍に増加した。デジタル多チャンネル時代となり、民放のプロ野球中継が激減していく中での成長は、パ・リーグTVなどネット配信コンテンツが大きな影響力を持っていることの証明でもあった。
パ・リーグTVのコンテンツは有料と無料があり、軸となるのは有料のライブ配信だ。ただ、その他に勝敗以外の部分、監督や選手、コーチのストーリーやマスコット、チアなどの6球団合同企画を特集した動画を無料で提供している。そうやって贔屓の球団や勝敗だけでなく、パシフィック・リーグそのものに関心を向ける人たちを増やしていった。