フランス・フットボール通信BACK NUMBER
八百長サッカー賭博はどんなもの?
ネットをフル活用する国際組織の実態。
posted2020/06/07 20:00
text by
アントワーヌ・ブーロンAntoine Bourlon
photograph by
DR
日本ではほとんど話題にならないが、八百長・不正工作はサッカー界では深刻な問題である。
八百長にはふたつの種類がある。ひとつはマフィアなど外部の犯罪組織が絡み、大規模なマネーロンダリングや非合法な賭博のために八百長をおこなうもの。もうひとつはそうした犯罪とはかかわりなく、クラブが成績を上げる(ヨーロッパカップ出場権を獲得する、降格を免れるなど)ための不正工作で、経済的に豊かでない国では日当の支払いが遅れているレフリーが不正を受け入れる場合も多い。後者は例えばボスニア・ヘルツェゴビナのような国にも存在する。
『フランス・フットボール』誌3月17日発売号で取り上げているのは前者のケースである。犯罪組織が絡んだ八百長は世界的な広がりを見せ、やり方もコミュニケーション手段の進化とともに変化している。サッカー界の対応も、後手に回っている印象がある。
ここではアントワーヌ・ブーロン記者のレポートとともに、デクラン・ヒルのインタビューもあわせて掲載する。闘いの最前線で働く人々の現状と、問題の深刻さがよく理解できるだろう。
ところで日本の野球賭博(プロ野球と高校野球)は、仮にそれが今も存在するのであれば、緊急事態宣言のもとでいったいどうしていたのだろうか。今は我慢のときと、他の国民とともに事態が収束するのをじっと待っているのだろうか。
監修:田村修一
時代と共に進化してきたスポーツ賭博。
世界のサッカーを食い物にする者たちにとって、リーグ下位のチームの試合を操作するのは簡単なことである。ある条件さえ整っていれば。
1920年代のイングランド、バーミンガム。工場が吐き出す煙が作り出すスモッグが街全体を覆い、その霧に紛れて悪魔たち――スマイル・ハート地区の悪役たちが仕事に専念していた。
アーサー・シェルビーは、かつてGKであったある人物にひとつのミッションを与えた。それは試合を操作するための情報を得ることだった。
舞台とシナリオは、ネットフリックスのシリーズのひとつである『ピーキー・ブラインダーズ(註:英の人気テレビドラマ。ギャング一家であるシェルビー家が、ブックメイカーなどを生業にバーミンガムからのし上がっていく様を描いている)』のものである。
そのやり方は1920年代も今もあまり変わらない。カフェでの会話がワッツアップとテレグラム(メッセージを暗号化する無料SNSソフト)にとって代わり、舞台もブックメイカーが本拠とするいかがわしい場所からインターネットへと替わっただけだった。